ブログ blog

ブログ

No image

研究テーマと関連学術ワード「有意味化」(B4 宮本幸来)

自己紹介
広島大学教育学部社会系コースの宮本幸来です。

今は「知識の構造化に注目した歴史学習の有意味化」について研究しています。

私がこの研究をしようと思ったきっかけとしては、歴史という科目が一般的には暗記科目であると認識されており、そのように暗記科目であるがゆえに機械的な暗記をしてしまう。そこで知識が断片的になることによって、あまり意味がないと感じてしまい、歴史が嫌いになってしまう人が多くいるという現状を変えたいと思ったからです。

このような想いは自分が中学生のころから持っており、自分がこんなにも好きな社会科を何故みんなは嫌いなのだろうかと日々考えていました。

長年このような課題に対しては様々な研究者たちが解決の方法を模索しているとは思いますが、知識の構造化という観点から子どもたちが歴史を好きになってもらえるような、自分の中で納得できるアプローチを見つけることができればよいと思います。

研究テーマに関連する学術ワード
研究テーマに関連する学術ワードは、学習の「有意味化」です。

学習の「有意味化」とは、ある事象が断片的に憶えられるのではなく、その事象が生起した原因と結び付けられたり、事象間が関連づけられるといった構造化がなされたりすることを指しています。

また「知識の構造化」とは「AはBである」といったような事象に関する知識が、例えば「~だから」と原因にあたる知識と結び付けられることを指します。

まだまだ研究を始めたばかりでこのような分野のことについて詳しく知るわけではありませんが、長くもあり、短くもある期間で池尻先生のもとで多くのことを、自分の興味を広げることができるように学んでいきたいと思っています。

No image

研究テーマと関連学術ワード「歴史的思考力」(B4 松本大空)

自己紹介
はじめまして、広島大学教育学部所属の松本大空です。

池尻先生のゼミでは研究関心である「生徒の発見した探究課題に社会科の視点から補助をする空間の設計」について研究しています。

具体的には、生徒が「自分で発見した問い」を持ち込んで、それに対して教員が社会科教員としての専門性を生かしながら補助が行える空間の設計を目指しています。

これは、私が高校時代に地歴公民科職員室に入り浸っていた経験と自分のやりたいことに対して様々な補助を行っていただいた先生の存在によるものなのだろうと思っています。

研究テーマに関連する学術ワード
さて、このブログをお読みの方の多くは社会科や教育に関わる方が多いかと思います。そこで今回は私が注目する学術ワードについて紹介をさせていただこうと思います。

私の注目している学術ワードは「歴史的思考力」です。

歴史的思考力とは実際の教育現場などで、「歴史的な見方・考え方」や「地理的な見方・考え方」などと呼ばれている概念とほぼ同義と考えられます。私が研究しているのは社会科の視点を活用した探究活動です。しかし、そもそも社会に対する視点や考え方を獲得することができなければ、探究課題の発見は不可能であり、この歴史的思考力はその探究活動が発生するための基礎と考えることができます。

この「歴史的思考力」に関する文献として佐々木英三氏の「歴史的思考力育成の論理 : O’Reillyの場合」を紹介します。この論文の中で佐々木氏は歴史的思考力をアメリカの高等学校社会科教師K.オレイリーの開発した授業から抽出しており、歴史的思考力が5段階に分かれていることを示しています。この5段階は歴史的事象の原因・状態(レベル1~3)と結果(レベル4,5)にわかれるため、どのレベルまで生徒が歴史的思考力を有していれば探究学習の基礎が完成しているといえるのかを考えることができるのではないかと私は考えています。

まだまだ分からないことが多く、不安なことだらけですが今後も楽しみながら研究を行えたらと思っています。

参考文献
佐々木英三 (1996) 歴史的思考力育成の論理 ― K. O’Reilly の場合 ―. 社会科研究, 45, 21-30.

No image

研究テーマと関連学術ワード「レリバンス」(B4 木下耕太朗)

自己紹介
広島大学教育学部社会系コース所属、木下耕太朗です。

私の研究テーマは「ナラティブ・テンプレートを活用した生徒の学習意欲を向上させる授業とは何か」です。生徒の生徒が有する共通した語りの枠組みであるナラティブ・テンプレートを活用することで、生徒の意欲・関心を引き出し主体的な授業参加に繋がるのではないかと考えました。

この研究テーマに関心を持ったのは、将来私が教師になった時に、生徒の意欲・関心を引き出せるような授業を行えるようになりたいと考えたことがきっかけです。大学入学後、様々な社会科の授業方法を学び、これまで自分が経験したことのないようなものも多く、非常に興味深いものでした。これらの学んだことも踏まえ、私が理想とする授業とは何かと考えてみると、生徒が意欲・関心を持ち主体的に参加できる授業であると考えました。

研究テーマに関連する学術ワード
ここでは私の研究テーマに関する学術ワードである「レリバンス」を紹介します。

レリバンス(relevance)とは多義的な概念ではありますが、一般的には有意性や関連性と訳され、物事を選択する際に「意味あるもの」とする基準を指します。『社会科重要用語辞典』(2022)によると、日本の教育の文脈においては、教育と社会のつながり(学校での学びが社会との関係の中でどのような意味を、どのように生み出すか)を検討するときに用いられるとされています。

次にレリバンスに関連する論文や本を2つ紹介します。1つ目は、『レリバンスの視点からの歴史教育改革論』(2022)です。この本では、日・米・英・独の事例を手掛かりに、レリバンスの視点からの歴史教育改革について論じられています。歴史教育の構造を子ども自身の文脈や子どもの生きている社会とどう関連付けるのかという問題に対して様々な事例が紹介されている。2つ目は、本田由紀さんの『「学習レリバンス」の構造・背景・帰結』です。「レリバンス」を構成する時間軸を重視することにより、2種類に分類できるとされています。1つは子どもが学習を行っているその時点で感じられる「レリバンス」であり、学習そのものの「面白さ」を指す「現在的レリバンス」。もう1つは学習を行っている時点よりもずっと後の時点で生じることが予測されている「レリバンス」であり、学習が将来何かに「役立つ」といった感覚を意味する「将来的レリバンス」に設定することができると紹介されています。

今後は先行研究をより分析するなど知見を広げて、自分の研究をどんどんブラッシュアップしていきたいと考えています。

参考文献
棚橋健治, 木村博一(編著) (2022) 社会科重要用語事典. 明治図書出版.
二井正浩(編著).(2022) レリバンスの視点からの歴史教育改革論 ― 日・米・英・独の事例研究. 風間書房.

研究室テーマを「歴史教育」ではなく「歴史の学習環境デザイン」にした理由

(1)「どんな研究室を作りたいのか」という自問自答

僕は研究者を目指した頃から、自分の研究室を持つのが1つの夢でした。研究室を作るというのは、同じテーマを探究する学問共同体が世代を超えて生まれることを意味します。

そのため、研究室テーマをきちんと言語化するというのは、自分の中ではとても大事な作業でした。僕の専門は「歴史を現代に応用するラーニングシステムの開発」なのですが、個人の研究テーマを看板にすると門戸が狭くなりすぎます。そのため、少し研究室テーマを広げた方が良いなという気はしていました。

(2)なぜ「歴史教育」を研究室テーマにしないのか

僕は普段、歴史教育の領域で研究しているので、研究室テーマを「歴史教育」にするのは自然といえば自然なのですが、昔からずっと歴史教育に窮屈さを感じていました。

「なぜ教室という特殊な空間で歴史を授業するという前提なんだろう」

「なぜ同質性の高い生徒同士で歴史を対話しているんだろう」

「なぜ高校が終わった後の学びはあまり考慮しないんだろう」

「そもそも歴史的思考力って何なの?指導要領に書かれていることだけで良いの?」

こんな疑問を持っていたわけです。

(3)「学習環境デザイン」との出会い

そんな時、学校教育だけでなくインフォーマルな学習場面も視野に入れて、「学習環境デザイン」を専門にしている山内祐平先生と出会いました。

「学習環境」は、学習者中心・共同体中心・知識中心・評価中心を掲げたコンセプトです。また、「学習環境デザイン」は、「活動」「共同体」「空間」「人工物」の4つを有機的に結びつけながらデザインをするのが特徴です(山内, 2020)。

僕は博士課程を含めて約15年間、山内研究室で「歴史の学習環境デザイン」の研究プロジェクトをしてきました。例えば以下のような研究です。

・大学の歴史学の講座を何歳になっても学べるオンラインの学習環境デザイン(論文

・普段見ているニュースと関連する歴史をどこでも検索でき、両者を踏まえて将来を考えられる学習環境デザイン(論文

どちらも歴史の教室内に閉じず、学習指導要領とも距離を置いて、歴史を学ぶとはどういうことなのか、それを実現する最適な学習環境はどういうものなのかを突き詰めたもので、参加者が伸び伸びと楽しそうに歴史を学んでいた点が印象的でした。特に前者の研究プロジェクトでは、戦後大学に通えず心残りに感じていた高齢者の方が、本当に楽しんで学習されていたことが今でも心に残っています。

(4)研究室テーマを「歴史の学習環境デザイン」にした理由

僕は、「歴史」という人類だけが持っているすごい価値の高い情報を、人類がどう学びうるのかに興味があります。それが学べる環境として、学校教育が第一なのは間違いありませんが、もっと裾野を広くして歴史学習を考えていきたいという思いがあります。

「そもそも人は、いつ・どこで・どんな歴史に触れるのだろうか」

「そもそも人は、誰と・なぜ・どのように歴史を語るのだろうか」

学習指導要領や受験に縛られず、もっとアカデミックに、自由に、歴史の学び方を考えていきたい。そして、「今の学校の歴史教育」のフレームをアップデートするために、「学習環境デザイン」の視点を使って、「未来の学校の歴史教育」のフレームを創造したい。

そんな想いを込めて、以下のように「歴史の学習環境デザイン」を研究室テーマに設定しました。

(5)研究室を社会のハブに

幸いにも、池尻研究室の学部の1期生は定員MAXの5名が入りました。 大学院も修士課程が1名、博士課程が1名入りました。嬉しい限りです。 仮に定年まで働けば、25期生くらいまで学部生・院生を迎えることができます。

僕が死んでも「歴史の学習環境デザイン」を探究する学問共同体が続くくらい、みんなで頑張っていきたいと思いますので、「歴史の学習環境デザインを通して未来の歴史教育を創造したい!」という方がいれば、ぜひ池尻研究室にお越しください。 学部生や大学院生だけでなく、連携研究もじゃんじゃんお待ちしています。

ちなみに、次回からは池尻研究室のゼミ生の研究紹介・学術ワードの紹介を連載していく予定です。お楽しみに!

参考文献

山内祐平(2020)学習環境のイノベーション. 東京大学出版会.

米国学術研究推進会議編著, 森敏昭, 秋田喜代美(訳)(2002)授業を変える−認知心理学のさらなる挑戦. 北大路書房.

No image

今年の抱負2:次のキャリアを考える -教材開発から学習インフラ開発に移行するために

東京大学で特任助教、特任講師を続けて約10年ということで、そろそろ次のキャリアを考えたいなと思っています。

長期的な目標はずっと「人類全体が歴史を繰り返さないよう、歴史から学べる新しい学習インフラを開発する」なのですが、これを実現するにはどのキャリアに進むのが良いのかをずっと悩んでいます。

というのも、これまでは色々な教材開発をしつつ授業実践をし、新しい学習の風景を開拓するというスタイルで研究をしてきたのですが、論文だけだと現実の世界に教材を広める力が弱いため、「新しい学習インフラ」にするにはハードルがあるなと感じたからです。ちなみにここでいう「学習インフラ」とは、学校制度、セサミストリートやNHKのような教育テレビ、Scratchのようなプログラミングの構築・共有ができるWEBサイトなどをイメージしています。

それでグルグルと色々なことを考えているのですが、単発の教材開発をする研究者から、学習インフラを開発する研究者に移行するには、大きく3つのポイントがあるなと感じました。

1つ目は、学習インフラを支える教育理論・思想を構築することです。新しい学習インフラをきちんと構築するには、教材や学習コンテンツがバラバラに存在しているだけではなく、それらを編み上げるルールとなる理論や思想が必要になります。これがないと、コンテンツはバラバラと存在するけれども、誰にも使われない状態になります。特に学校制度については理論や思想がしっかりありますが、インフォーマルな領域にも絡むような学習インフラを考えるのであれば、新しい教育理論・思想が必要だなと感じています。個人的にはデューイの教育理論が好きなのですが、どうアップデートできるかはじっくり考えたいなと思っています。

2つ目は、企業との連携です。東大では共同研究プロジェクトを担当することが多かったのですが、やっぱり企業と連携すると一気にインフラとしての実現度合いが高くなるなと感じました。例えば、日本版の「大規模公開オンライン講座(MOOC)」となったgaccoの講座を開発・評価する共同研究プロジェクトに携わっていたのですが、これは研究的な理念を「学習インフラ」にする理想的な事例だなと思いました。資金的な面だけでなく、人的な面でも、やはり一研究者として開発するだけではなく、色々な人と連携できる研究者になる必要があるなと感じています。

3つ目は、現場での利用事例を増やすことです。いくら「モノ」を作っても、教育現場での利用事例がないと、学習のイメージが湧きにくく、「心理面でのインフラ」にはならないと感じました。これは、Google for Educationとの共同研究プロジェクトで、Scratchを小中学校の授業で活用するプロジェクトがあったのですが、長野県の大学と教育委員会と多数の学校の教員がチームを組んで事例をどんどん作り、共有していく中で新しい学習インフラになっていた様子を見て思ったことで、やっぱり現場に落とし込んだ利用事例は普及力のエネルギーになるんだと思いました。

ということで次のキャリアとしては、企業や教育現場と連携できるようなポジションにつきたいなと思っているのですが、それを実現するには、大学教員が良いのか、企業に所属するのが良いのか、NPOもしくはベンチャーを立ち上げるのが良いのか、現場の教員として良い事例を作りつつコミュニティを構築するのが良いのか、もしくは全部やれるのか、その辺りはまだ悩んでいます。

今年はこの辺りをじっくり考えつつ、次のキャリアに進みたいなと思います。