2010-09-13

歴史教育での説明スタイル -日米間の違い

参考文献:渡辺雅子(2003)歴史教育における説明スタイルと能力評価 : 日米小学校の授業比較

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世界史の教育実習生がした咄嗟に出した質問「なんで?」

 先日、世界史の授業見学でお世話になっている高校に行った時のことです。 その日は、大学3年生の教育実習生が授業をするとのことだったので、 実習生の世界史の授業見学をさせてもらっていました。大ベテランの先生は型が決まっているので勉強になる一方、 実習生は色んなことを試行錯誤しているので、 普段は観察できない授業方法が生徒にどう受けるのかが見れてとても楽しかったです。

その中で最も面白かったのが、質問の仕方。 「ラテンアメリカの独立に影響を与えた国はどこだったと思う?」と質問をしたら、 生徒は「アメリカ!」とあまりにも簡単に答えられたので、 とっさに「なんで?」と質問を加えたんです。 そうしたら生徒は「え?なんでって…」と困った表情をして思考が一時停止。 でもしばらく考えた後に、ちゃんと答えを導いてしました。

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日米の歴史教育における説明スタイルの違い

 この現象、非常に面白くて、そもそも日本の歴史教育の説明スタイルはWhyがやや少ないんですね。 この点について、渡辺(2003)が面白い研究をしています。
彼女は、
・日本とアメリカの歴史教科書の説明スタイル
・日本とアメリカの教師の1授業中の説明スタイル
の2つを対象に、5W1Hがどの割合で使われているのかを分析・比較しています。

その結果、上位3つとその割合を示すと以下になります。
・教科書(日本)    1位:What(55.3%) 2位:How(31.6%) 3位:Why(10.5%)
・教科書(米)     1位:What(41.6%) 2位:Why(23.3%) 3位:How(21.1%)
・歴史教師の質問(日本)1位:What(39.7%) 2位:How(26.3%) 3位:Why(8.5%)
・歴史教師の質問(米) 1位:What(49.1%) 2位:Why(16.8%) 3位:How(12.7%)

まあWhatが両者1位は当然として、次に多いのが 日本はHow(どんな?)、アメリカがWhy(なぜ?)っていうのが非常に面白いですね。 

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なぜ、日米でこんな差が生まれるのか? 

 彼女の分析によると、 日本の歴史教育にHowが多い理由として、 学習指導要領で「関心・意欲・態度」が重視された結果、 歴史に共感する能力に重きをおく歴史があったからだとしています。
逆にアメリカの歴史教育にWhyが多い理由として2つ挙げています。 1つはベンジャミン・ブルームの分類の影響。 ブルームによると、習得すべき能力の順序として、 「知識」→「理解」→「応用」→「分析」→「統合」→「評価」となっています。 つまり、理解するだけでなく分析能力をつけるためにWhyが多くなったのだとしています。 もう1つは、クリティカルシンキングの影響です。 アメリカでは1960年代後半からクリティカルシンキングの動きが 発達していき、その影響で歴史教育にもWhyが多くなったのだとしています。

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HowとWhy、どっちが良いのか?

 ここからは歴史の授業を見学してきた僕の主観になるのですが、 歴史の授業でWhy型の質問をすると、高校生でも最初はかなり戸惑います。 これは上の実習生だけでなくベテランの場合もそうです。 というのも、WhatやHow(どんな状態だったか?など)は、 基本的には教科書や授業で習った内容をそのままリピートすれば良いのですが、 Why(なんで?)は習った内容を「つなげる」必要があるからです。 これはブルームの分類にもあるように、 知識を得て理解するよりもずっと高度な作業なので、 高校生には答えられない場合も多いです。 ただ、別の高校ですが、 日常的に「こうなったのはなんででしょう?」を テーマにした歴史授業を受けている生徒は、 とても頭を使い、非常に楽しそうに友達と議論を交わしていました。 彼らには暗記一辺倒の歴史授業では身につけられない、 分析能力のようなものが育っているんじゃないだろうかとも思えます。

 もちろん歴史教育において、 HowとWhyのどちらが多い方が良いのかは一概には言えないと思います。 生徒のレベルに合わせてHowが良い時もあれば、Whyの方が良い時もあります。 Whyの答えには主観が入りやすいので、正しい解釈かどうかわからないという問題点もあります。 ただ、歴史の授業でWhyの質問をされると、 頭が熱くなるのも確かです。 「歴史の授業(もしくは学習プロジェクト)やっているけど、 なーんかいまいち盛り上がらないんだよな〜」と悩んでいる日本人のそこのあなた! 知らず知らずHowの質問ばかりしていませんか? 学生はHowの質問に飽きていませんか? そんな時は、Whyを使ってみてはどうでしょう?