創造的な開発研究につながる支援原理の作り方

開発研究をはじめてまだまだ6年目ではありますが、最近、開発研究の「支援原理」の作成に苦労している人が周りに多いので、僕なりの支援原理の作り方を書いておこうと思います。

■開発研究と支援原理
通常、研究は新規な疑問を探し、ある方法を使ってそれを解決する流れを取ります。仮に疑問を「歴史上の庶民の生活を実感させる方法とは何か」とします。開発研究では開発物自体にも研究上の新規性が必要なため、この方法の部分をかなり創造的にする必要が出てきます。

一般的な教育工学の開発研究の場合、ある疑問に対し、その解決に効果的だと考えられる研究上の根拠、「支援原理」を用いて開発を行っていきます。例えば仮に、「ロールプレイをすると演じている役の気持ちに共感できるようになる」という心理学的な知見があった場合、これを引用して歴史のロールプレイができる支援原理を作り、それに沿って開発物を作って効果を確かめるという流れになります。

 ■アナロジー が持つ創造性に対するトレードオフな側面
ここでポイントになるのが、この支援原理には一種のアナロジー(類推)が絡んでいるということです。アナロジーは創造性を高めるという研究も多くあることから、支援原理の作成の際にどんな研究知見を根拠にするかが開発研究の創造性に影響を与えると考えられます。

ただし、アナロジーと創造性の間にはトレードオフな関係があることがわかっています。Gomes et al.(2006)は、類推における創造性は「新奇性」(novelty)と「有用性」(usefulness)の2つから構成されるものだとした上で、複数のアナロジーを通して作られたものの「新奇性」と「有用性」を測定しました。その結果、近い領域で構造が類似しているものは有用性が高い一方で新奇性が低くなり、離れた領域で構造が似ていないものは新奇性が高い一方で有用性が低くなるという研究結果が出ました。

つまり、他研究を引用して支援原理を作成することを仮にアナロジーと捉えた場合、新奇性を上げるにはある程度領域の離れたところから研究知見を持ってくる方が良いといえます(もちろん、有用性を高めるための微調整も必要になるので、構造は類似させた方が良いというのが僕の印象です)。

■離れた領域の研究知見を集める方法
ところが、この「離れた領域」の研究知見を探すのは難問です。なぜなら疑問を探す場合は自分の研究領域を調べれば良いので、例えば「歴史 学習」などで検索して引っかかった論文を調べていけばいいわけですが、「離れた領域」はどう調べれば良いのかわかりにくいからです。

これを克服する方法の1つとしては、普段から離れた領域の知見や現象をインプットしておき、アナロジーのストックとしてためておく方法が挙げられます。例えば、歴史学習とは領域が離れている生物学の本を読んでみたり、文化人類学の本を読んだり、社会学の本を読んだり、プログラムのアルゴリズムの本を読んだりしておくと、その知見が支援原理となって、創造的な開発物が生まれるかもしれません。

もう1つの方法は、自分とは異なる領域の研究者と出会うことです。これはとても簡単なように見えますが、実は自分と離れた領域の研究者と話をする機会は日常的にはほとんどありません。そのため、自分の領域の学会にばかり行かず、たまには他の学会に参加してみたり、普段は行かない授業やセミナーや研究会に参加してみることも必要かもしれません。

一見すると、このように離れた領域の研究知見を吸収するのはムダな時間に見えるかもしれませんが、この時間を確保しないと一般的な支援原理しか思いつかず、陳腐な開発研究になってしまうリスクが出てきます(実際、歴史学習×ロールプレイの研究はすでにやられています)。

創造的な開発研究につながる支援原理を探すには、少し遠回りには感じるものの、直接的に自分の研究とは関係ない研究知見を吸収しようという知的好奇心を持ち、自分の開発研究に活かせないかを日頃から考える方が案外近道なのかもしれません。

…と書いていたところで、最近僕もそういう時間が取れていないなと自覚したので、久しぶりに全然歴史学習と関係ない本でも読もうかなと思います笑

 

参考文献:Gomes, P., Seco, N., Pereira, F. C., Paiva, P., Carreiro, P., Ferreira, J. L. & Bento, C. (2006) The importance of retrieval in creative design analogies. Knowledge-Based System, 19(7): 480-488.