Social Education Lab 第2回(地理ver)開催報告

Social Education Lab 第2回(地理ver)開催報告

地理、歴史、公民など社会科に興味のある人達が集まり、お互いの知識をシェアする研究会、Social Education labの第2回は「地理」をテーマに実施しました!今回は地理の教師である上野貴子先生をゲストにお招きし、地理教育の知識を(1)地理科目における電子黒板の利用と問題解決型授業を行うための取り組み、(2)日本の地理教育の動向、(3)海外の地理教育の動向の順番でシェアしていきました。

(1) 地理科目における電子黒板の利用と問題解決型授業を行うための取り組み(上野貴子先生)

上野先生の授業形態と興味をもたせる工夫
 上野先生はこれまで中高で50分の講義形式の授業を行ってきており、必ず「なぜ、〜なのだろうか?」という疑問を投げかけ、生徒の意見を聞き出す時間を入れてきました。ところが 同じ授業方法を行っても 、10年程前と比べて最近は生徒からの自主的な質問がなかなか出てこなくなっており、うまく誘導したり興味付けることに力を入れるようになりました。

電子黒板を使った地理の授業
 そこで、上野先生が5年前に目をつけたのが電子黒板でした。 電子黒板とは、パソコンの画面上に表示しているものをホワイトボードなどに表示して描いた内容をデータに変換して保存できるもので、情報量の多い授業展開が可能になります。パソコン上で板書のようにカラフルな線を引くことも可能なので、地図帳と板書を組み合わせたようなリッチな授業ができます。(実際に研究会で上野先生に使っているところを見せてもらったのですが、想像以上に自由度が高い上に、視線がきれいに誘導されて驚きました!)

電子黒板とノートテイキング
 ところが電子黒板を使ううち、生徒によってノートテイキングの時間差が大きすぎることに気付きました。従来の黒板だと左半分・右半分と順番に書いていくので、ノートテイキングにタイムラグがあっても写すことは可能です。ところが、電子黒板の場合は教師が板書に費やす時間が少なく、画面もポンポンと進んでいってしまうため、ノートテイキングが追いつかない生徒が出て来るという問題が生じました。
そこで、画面を切り替えるのではなく、スライドを縦につなげていって、最初に上半分の画面を映しだし、スクロールをして徐々に下を映し出す方式にして、板書に近い形にするという工夫を取りました。その後、試行錯誤を重ねた結果、従来の黒板を半分使い、もう半分の部分に電子黒板を置くという併用型の授業形態に落ち着きました。

ノートテイキングとテストの関係性
 次に、上野先生自身が行われた興味深いを調査を紹介してもらいました。上野先生は電子黒板を使った地理の授業におけるノートテイキングがテストの成績にどう影響しているかを調べるため、中学2年生のノートを集め、以下の4つに分類しました。

①大変良い・・・ 板書した内容+口頭説明 +自分なりのノート作り
②良い・・・板書した内容+口頭説明
③普通・・・板書した内容
④悪い・・・板書した内容が書き取れていない

そのノート別に期末試験の点数を分析したところ、とても面白いことがわかりました。最初は「大変良い」ノートを取っている生徒が一番成績が良いと思っていたそうなのですが、実際の成績の伸び自体は「普通」「良い」とそこまで変わっていなかったのです(これに対して上野先生は、ノート作りに必死で教師の話を聞いていない可能性があると指摘していました)。一方、「悪い」ノートを取っている生徒は、「普通」「良い」「大変良い」のノートを取っている生徒に比べて極端に成績が悪いことがわかりました。また、板書せずに口頭で説明した内容をテストに出すと、正答率が低いこともわかりました。

生徒主体の問題解決型授業を行うために
 ここで上野先生は「今までの授業形態では、生徒の学ぶ力を育てるには限界があるのでは?どんな授業だと地理教育本来の目的を実現し、生徒の学ぶ力を育てられるか?」と思い、生徒主体の問題解決型授業を行うことを目指しました。
ところが、現在のカリキュラムでは時間的に問題解決型の授業を取り入れるのは厳しいという問題があります。そこで、目をつけたのが「反転授業」です。反転授業とは、説明型の講義をオンライン教材化して宿題にし、従来宿題であった応用課題を教室で対話的に学ぶ授業のことを指します。上野先生はこの方法を使い、電子黒板を使いつつ音声と板書を時系列で記録した地理授業の映像を生徒にあらかじめ見せることで問題解決型の授業時間を確保し、問題解決型の授業を実施するという方法を取っており、より良い実施方法に向けて試行錯誤中とのことでした。(下の画像は実際の映像です)

 

(2)日本の地理教育の動向(逸見峻介)

注目されているキーワード
 逸見さんからは日本の学会における地理教育の動向を紹介してもらいました。逸見さんによると最近注目されているキーワードは、以下の4つだそうです。

①動態的地誌
動態的地誌とは、地域の特色を形成している中心的な要素に絞って内容構成を図る地誌学習です。ドイツの範例学習やイギリスのサンプルスタディが主な例です。網羅主義になりやすい静態的地誌と異なり、関係性の深いテーマを中心に構成されるため、社会問題などがテーマになりやすく、公民などとの連携色が強くなるのが特徴です。

②観光
2つ目は「観光」です。日本は観光立国ということもあり、日本地理教育学会でも発表テーマとしてよく取り上げられています。具体的には、図上旅行学習、観光ホスピタリティ、世界遺産、クールジャパン、食文化などを扱う授業がこれに当てはまります。

③ESD(Education for Sustainable Development:持続発展教育)
3つ目は「ESD」です。近年の環境問題とも連動し、持続可能な社会を実現するためのテーマ設定を行い、地理と連動させた学習を行わせる形です。具体的には、社会参画(ゴミマップ)、生態系調査、環境問題、エネルギー問題、GISを使ったヒートアイランド観測などを扱う授業がこれに当てはまります。

④防災
4つ目は防災です。これは特に3.11以降によく取り上げられるようになり、2012年の日本社会科教育学会のテーマにもなっています。その中でも、自助や公助に加えて近隣で互いに助け合う「共助」も注目されているようです。また、防災だけでなく、災害時に生じる被害を最小化するための取り組みとして「減災」にも注目が集まっているそうです。具体的には、エネルギー問題、ハザードマップ、図上防災訓練、阪神淡路大震災を扱う授業がこれに当てはまります。

授業実践例(新小岩小学校の取り組み)
 続いて逸見さんから、小学震災をテーマにした町づくりを授業実践を紹介してもらいました。この授業では、1学期には「自分たちにとっての震災」というテーマで、3.11時の体験を振り返り、首都直下型地震を想定した家の中の危険チェックを考えて見取り図などを作成します。2学期では「地域の防災チェック」というテーマで、新小岩の延焼シミュレーションを行ったり、消化器が置かれている場所や消防車の通路などを調べる地域の防災チェックを行い、最終的には町長や消防なども参加する防災対策発表会で発表を行い、町会長から感謝状をもらうに至ったそうです。この授業を通して、生徒達は家の中から地域まで徐々に防災意識を広げつつ、色々な課題を知ることができるようになったそうです。

 

(3) 海外の地理教育の動向(池尻良平)

海外の地理教育の2つの動向
 最後に池尻さんからは海外の地理教育の2つの動向を紹介してもらいました。1つは、フィールドベース型の問題解決学習です。これは、生徒の環境的なアイデンティティを育みつつ、認知的な学習効果も期待できるもので、イギリスやニュージーランド、シンガポールで活発に行われています。実践方法としては、1 準備(レベル設定、資料整理など)、2 シナリオデザイン(リアルさ、自主性、多次元の問題、解決可能性を重視)、3 実践(役割分担をさせ、質問を投げ、明確な制作物を課す)、4 評価(学習プロセスと制作物を、教師と生徒同士で評価)の流れが一般的です。
もう1つは、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)です。これは地理上の多様なデータを重ねられるシステムで、例えば通常の地図の上に気候や人口分布、下水道の位置などを重ねることができ、空間的な理由付けに効果があると考えられています。

地理教育における問題解決+GISの効果実験
 もう一つ実証的な実験としてYan, Elisabeth, Chang, Hans(2010)の”PBL-GIS in Secondary Geography Education: Does It Result in Higher-Order Learning Outcomes?” を紹介しました。これはシンガポールの中学校で行われた実験で、シンガポールが抱えている問題の一つである「人口のダイナミズムと移民」をテーマにした問題解決型学習をベースにしたものです。ここでGISの効果を見るため生徒を以下に分けました。

●実験群:問題解決型学習のプログラム + GISシステム
●統制群:問題解決型学習のプログラム + コピー資料やJPG画像

この状態で授業を行い、ブルームの分類をもとに①記憶再生、②理解、③応用、④分析、⑤評価、⑥創造の6つの観点で評価を行いました。その結果、①記憶再生は統制群の方が高かったのですが、他の5つに関しては全てGISを使う実験群の方が高かったのです。
上野先生や逸見さんのプレゼンでも問題解決型の授業について触れられていましたが、今後、学習効果の観点から見てもGISと組み合わせることが重要といえそうです。

地理の教育方法について
 今回の研究会は、参加者の半分が教員ということで地理の具体的な教育方法についてのシェアが活発に行われました。例えば、鈴木先生からは必ず真ん中に世界地図を置いて、場所が見えるようにして授業しているという話をしてもらったり、松本先生からは関ヶ原の合戦のテレビとかはわかりやすいので教育でも取り入れられそうという話が出ました。逸見さんが動態的地誌について紹介したことに対しては、上野先生からは「動態的地誌は促成栽培の比較とかが行われることが考えられているが、順番で教えている場合、奈良県を教えていない場合はできないという問題がある」というカリキュラム構成の課題についても触れてもらい、地理教育についてのディスカッションにも熱が入りました。さらに、地理教育に使えるシステムについての話にもなり、デジタル地図帳やGoogleアース、GISなどについての知識も共有しました。

地理とは何か、他の教科とはどう連動できるか
 上野先生は「地理は自然と人間の生活をつなぐもの」と考えており、「ただ、人間の生活は歴史や公民がないとわからないので、決められた時間内でどう連携するかが大事」と話してもらいました。同時に、電子黒板を使えば5時間かかった授業が3時間で済むことから、残りの2時間をどう使うかが鍵になりそうです。

まとめ
 研究会後、先生サイドとして、鈴木先生は「純粋にやってみたいことが一杯あった。2学期にやってみてそのフィードバックをこの研究会でしたい」という感想を、松本先生は「実りが多かった。現場の地理の先生の知らないことが一杯あるので、みんなに話したい」という感想を、上野先生からは「色んな人と会って話をすることの大事さを感じた」という感想を話してもらいました。
一方、学生サイドとしては、藤谷さんからは「大学の教育方法の授業は今までやってきたことがベースになっているので、こういう研究会のように新しいものには触れられておらず、教師教育が遅れているように感じた。アナログ人間だけど現場に行くまでに身につけたいと思った」という感想を、 逸見さんからは「教科教育はICTとかGISなどについては遅れている。デジタルが後々当たり前になった時の、具体的なことが話せて良かった」という感想を、池尻さんからは「地理教育は全然わからなかったけど、具体的なイメージが湧いてとても刺激的だった」という感想が出ました。今回の研究会もとても刺激的な会でした!皆さんありがとうございました!

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