「良い疑問が生まれたか」という評価軸

最近の教育界では学習目標が高度になっている関係で、学習内容を評価するのが難しくなっています。ゲームを使った学習、ワークショップ、アクティブ・ラーニング、カフェ的なイベントなどをやられている方や、「創造性」や「生きる力」を評価しようとしている人にとっては、身に覚えのある悩みじゃないでしょうか。

この原因はシンプルで、
・学習効果がテストで測定できない
・将来に学習効果が発揮されるので活動直後だと測定できない
の2つが主な原因だと僕は分析しています。

僕の研究でも高度な歴史学習の効果を期待しているので、評価方法どうしよっかなーとよく悩んでいるのですが、McCallの”Gaming the Past”という本を読んでいて面白い評価方法を見つけました。この著者は、中学3年生に”Rome: Total war”というシミュレーション・ゲームを使った授業を行ったらしく、「どうやって学習効果を測定するんだろう?」と読み進めていると、彼はその授業後に出た生徒の疑問を列挙しながら、こんな記述を続けています。

「歴史をゲームで提示した時には、生徒達は歴史の専門家がするような疑問を出すことができた。紙の資料を提示した時や講義の時に、こんな疑問を出すだろうか?」

本人も書いているように実際の所は実験してみないとわかりませんが、確かに出てきた疑問の質は高い印象があって、少なくとも僕が中学の頃に受けた講義型の授業じゃこんな疑問出ねぇなと思いました。後、僕の経験でも、ゲームやワークショップをした後は、とても良い疑問や疑問が浮かんでいる印象があったので、なかなか説得力のある評価方法だなと思いました。

創造性を評価する場合でも、「生きる力」を評価する場合でも、学習効果そのものを評価することは難しいですが、その発端となる「良い疑問」はプログラム直後に出てきやすいので、「良い疑問→高度な学習効果」というロジックを作って評価軸にすることは有効かもしれません。具体的には、プログラム後にその領域の専門家が作る疑問と同じような疑問を生み出しているか(この基準に関してはまた別のブログで紹介したいと思います)という観点で評価を行うことなどが考えられます。

この評価軸を使うと講義に比べてどんな差が出るのか、一度研究で扱ってみたいと思っています。 

参考文献:McCall, J.(2012)”Gaming the Past: Using Video Games to Teach Secondary History”

“歴史を演じる” ことの学習効果

日本の歴史教育では教科書を読みつつ用語を暗記するというスタイルが主流ですが、海外の歴史教育ではアクティブな学習方法がどんどん開発されています。僕の研究領域でもあるので毎日そういった論文を読んでいるのですが、歴史を演じる(Performing History)という面白い学習方法とその効果を検証したアメリカの研究を見つけたので、紹介したいと思います。

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1990年代後半頃になると、海外の歴史学習研究者 LevstikやBeckやMcKeownらが行った1990年頃の研究によって、歴史は事実を羅列するだけではなく、事実はそのままの形で物語性を持たせ、登場人物や背景に共感させるテキスト形式の方が歴史の理解を向上させるということが明らかになっていました。

Otten率いる研究チームはこの歴史的共感とそれを促進する物語性に着目し、2001年にドラマの演技を学習方法に導入した実践を行いました。彼らはアメリカの小学5年生を対象に、”Performing History”というミュージカル風のドラマ型プログラムを作り、実際にMarquez校で1年間実施しました。ミュージカルには
・フィラデルフィアの奇跡( 1787年の合衆国憲法制定会議への対処 )
・ハロー、ルイジアナ( LewisとClarkの探検とルイジアナ購入 )
・水と力( 産業革命 )
の3種類が用意され、各時代の情報を吸収しながらリハーサルを行い、実際にドラマを実演するというプログラムを行ったそうです。

じゃあどうやってこの学習効果を測定したのかという話なのですが、彼らはMarquez校を含む72の異なる小学校から集まったPaul Reserve Middle Schoolの小学6年生440人を対象に歴史的事実の知識を測定する多肢選択テストを実施しています。このミュージカル風のドラマ型プログラムを行った学校はMarquez校だけなので、もしこのプログラムに効果があるなら、彼らのスコアと通常の教科書型の学校出身の生徒で違いが出るだろうと踏んだわけです。ちなみに問題はカリフォルニアの公立学校向けの内容標準テストから取っていて、それぞれ小学校4年生、5年生、6年生の3時点で実施しています。

その結果、ミュージカル風のドラマ型プログラムを行ったMarquez校出身の生徒の方が歴史の知識テストの得点が高いことがわかりました。「え?それって出身校の学力レベルの差なんじゃないの?」と思ったんですが、小学校4年生の時点ではMarquez校と他の学校間に「読み」「算数」「言語」「書き取り」の点数差はなく、小学校6年生の時点でも同じくこれらの点数差はなかったそうです。つまり、歴史のスコアだけが違うので、ドラマ型の歴史学習のプログラムが歴史の学習に良い影響を与えたと彼らは主張しています。ただし、テストで出題される領域はミュージカルでカバーされた範囲に絞って比較しているので、単純に同じ内容にかける時間の違いが影響として出ている可能性も十分あると読んでいて思いました。

ただし、それを差し引いても面白い結果がもう1つ出ています。それはドラマ型のプログラムを行ったMarquez校出身の生徒の方が「歴史を楽しい」と思っているスコアが高かったことです。また、パス分析を行った結果、テストスコアの向上には、歴史を楽しむ気持ちが部分的に関係していることもわかったそうです。

まとめると、ミュージカル風のドラマ型プログラムによって「歴史を楽しい」と思うようになり、通常の教科書型の小学校の生徒に比べてドラマで扱った分野の知識がより定着するという効果があるようです。

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人間の思考形式や認知作用には、①論理・実証モード(Paradigmatic Mode)と②ストーリーモード(Narrative Mode)の2種類があるといわれています(ブルーナー)。前者は「ある物事が正しいのか、間違っているのか」に注目していて、ロジカルシンキングによって育成されます。一方、後者は人間がどのような意図をもち、どのような行為を行い、何を経験し、どんな帰結にいたったのかという出来事の間のつながりや意味を感じ取る思考形式で、文脈や感情を捉えるのに適しているとされています。

これから考えると、ミュージカルのようなドラマ型の演技を取り入れて歴史的な文脈や登場人物の感情を知ってもらうという学習プログラムは、特に小学生にとってはなじみやすい思考形式なのかもしれないなと思います。日本の授業ではなかなか実施しずらいかもしれませんが、重要な歴史にフォーカスし、文化祭などで実施してみるのは良い方法かもしれませんね。

 
参考文献:Mark Otten, James W. Stigler, J. Arthur Woodward, and Lisle Staley (2004) Performing History: The Effects of a Dramatic Art Based History Program on Student Achievement and Enjoyment. Theory and Research in Social Studies, 32(2), 187-212