【書評】ストーリーの心理学

参考文献:ジェロム・ブルーナー(2007)『ストーリーの心理学–法・文学・生を結ぶ』ミネルヴァ書房


本書の概要

 ナラティブ(≒物語)やストーリーメイキングの特徴や構成要素を中心に、どのように使われているかを説明しています。また、論理的思考と異なるものとしてナラティブを位置づけた上で、「法的ナラティブ」「文学的ナラティブ」「自己(生)ナラティブ」の4つの例をもとに各ナラティブの違いに紹介しています。

 今回は個人的に興味深かった4つのポイントをかいつまんで紹介したいと思います。

(1)ストーリーメイキングの特徴

 ・ある特定の「意図」のもとでなされる。

 ・ある特定の「視点」から語られる。

 →1つの内容に関するストーリーであっても「語り手」「内容の主人公」「その他の登場人物」という複数の意図と視点が絡んだ、複数の景観ができます。ブルーナーはこれを「二重の景観」と呼び、重視しています。

(2)ストーリーの中心となるもの

 ストーリーにおいては、Kenneth Brukeがあげる「劇の五基礎」(主体・目的・手段・行為・状況)も大事だが、通常「ペリティア(急激な転倒、トラブル)」が中心になります。そして、そこからの脱出が重要な主題になります。ブルーナーは、優れたナラティブではその脱出が象徴的に一般化され、強い力をもった比喩として機能する点が重要だと考えています。(池尻注:カメとウサギの話し→「継続することが大事」みたいな)

(3)ナラティブ(ストーリー物語)の分類とその特徴

 ブルーナーはナラティブの種類を分析し、大きく以下の4つに分類しています。

1. 法的ナラティブ(対立的)

 原告と被告で同一の事象に対して二つの異なるストーリーが作られているものです。法的ストーリーは過去を受け継ぐことによって法的秩序の意維持をはかろうとする「継承的ストーリー」であり、そこでの法的正統性は過去の先例への一致度合いで測られます。なお法的ストーリーは、日常的ストーリーが法的手続きにそった場合のみ作られ、事実の再解釈なども行えるが、事実にもとづくことが常に要求されるという特徴を持っています。

2. 文学的ナラティブ(独自的)

 文学的ストーリーでは見かけの現実性を利用しつつ、現実を「仮定法化」します。そのため、そこで提示する慣習化された現実性を破る可能態が一つの迫真性をもち、人々に世界を見直す新たな目を拓く点が特徴です。

3. 自己ナラティブ(自己内対話的)

 自己はたえず再構成を重ねてゆくものであって、自己形成のストーリーが自己を型化します。その際、「自分に関わるどのイベントを語るか」「自分をどのような観点から誰に向けて語るか」によって複数のストーリー作りが可能になります。また、文化そのものの中にも長い歴史の中でナラティブの原型が多くの形で内蔵され、蓄積され準備されており、ブルーナーはこれも自己ナラティブに含めています。

4. 臨床的ナラティブ(共同的)

 カウンセリングにおけるナラティブです。法的ストーリーと違い、対立的ではなく共同的なストーリーになります。

*法的ナラティブが慣行的な過去の記録の体系(法大全)に向かう一方で、文学的ナラティブは象徴的可能性や創造性に向かう点で対極的です。ただし、実際の裁判でも個人の新たな文学的ナラティブをもとに慣例が修正されることがあるように、両者は相容れないものではないと説明されています。

(4)ナラティブの意義

 ブルーナーの説明によると、一つの同じことをめぐって多くの対立が起こる結果、解釈の異なる立場や見方から様々なストーリーが作られることになります。そして、それらを互いにつきあわせられる中で、そこから可能な限り有効な解決がはかられ、すぐれた法律、臨床、文化を生み出すことにつながります。このように、様々な解釈を取り込んで一段階高いものを生み出せることこそが、ナラティブの持つ意義のようです。

ということでサラッと紹介しましたが、本書では先行研究の紹介や各ナラティブの具体例が満載になっているので、興味のある方はぜひ一読してみて下さい。

おしまい

歴史教育での説明スタイル -日米間の違い

参考文献:渡辺雅子(2003)歴史教育における説明スタイルと能力評価 : 日米小学校の授業比較

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世界史の教育実習生がした咄嗟に出した質問「なんで?」

 先日、世界史の授業見学でお世話になっている高校に行った時のことです。 その日は、大学3年生の教育実習生が授業をするとのことだったので、 実習生の世界史の授業見学をさせてもらっていました。大ベテランの先生は型が決まっているので勉強になる一方、 実習生は色んなことを試行錯誤しているので、 普段は観察できない授業方法が生徒にどう受けるのかが見れてとても楽しかったです。

その中で最も面白かったのが、質問の仕方。 「ラテンアメリカの独立に影響を与えた国はどこだったと思う?」と質問をしたら、 生徒は「アメリカ!」とあまりにも簡単に答えられたので、 とっさに「なんで?」と質問を加えたんです。 そうしたら生徒は「え?なんでって…」と困った表情をして思考が一時停止。 でもしばらく考えた後に、ちゃんと答えを導いてしました。

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日米の歴史教育における説明スタイルの違い

 この現象、非常に面白くて、そもそも日本の歴史教育の説明スタイルはWhyがやや少ないんですね。 この点について、渡辺(2003)が面白い研究をしています。
彼女は、
・日本とアメリカの歴史教科書の説明スタイル
・日本とアメリカの教師の1授業中の説明スタイル
の2つを対象に、5W1Hがどの割合で使われているのかを分析・比較しています。

その結果、上位3つとその割合を示すと以下になります。
・教科書(日本)    1位:What(55.3%) 2位:How(31.6%) 3位:Why(10.5%)
・教科書(米)     1位:What(41.6%) 2位:Why(23.3%) 3位:How(21.1%)
・歴史教師の質問(日本)1位:What(39.7%) 2位:How(26.3%) 3位:Why(8.5%)
・歴史教師の質問(米) 1位:What(49.1%) 2位:Why(16.8%) 3位:How(12.7%)

まあWhatが両者1位は当然として、次に多いのが 日本はHow(どんな?)、アメリカがWhy(なぜ?)っていうのが非常に面白いですね。 

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なぜ、日米でこんな差が生まれるのか? 

 彼女の分析によると、 日本の歴史教育にHowが多い理由として、 学習指導要領で「関心・意欲・態度」が重視された結果、 歴史に共感する能力に重きをおく歴史があったからだとしています。
逆にアメリカの歴史教育にWhyが多い理由として2つ挙げています。 1つはベンジャミン・ブルームの分類の影響。 ブルームによると、習得すべき能力の順序として、 「知識」→「理解」→「応用」→「分析」→「統合」→「評価」となっています。 つまり、理解するだけでなく分析能力をつけるためにWhyが多くなったのだとしています。 もう1つは、クリティカルシンキングの影響です。 アメリカでは1960年代後半からクリティカルシンキングの動きが 発達していき、その影響で歴史教育にもWhyが多くなったのだとしています。

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HowとWhy、どっちが良いのか?

 ここからは歴史の授業を見学してきた僕の主観になるのですが、 歴史の授業でWhy型の質問をすると、高校生でも最初はかなり戸惑います。 これは上の実習生だけでなくベテランの場合もそうです。 というのも、WhatやHow(どんな状態だったか?など)は、 基本的には教科書や授業で習った内容をそのままリピートすれば良いのですが、 Why(なんで?)は習った内容を「つなげる」必要があるからです。 これはブルームの分類にもあるように、 知識を得て理解するよりもずっと高度な作業なので、 高校生には答えられない場合も多いです。 ただ、別の高校ですが、 日常的に「こうなったのはなんででしょう?」を テーマにした歴史授業を受けている生徒は、 とても頭を使い、非常に楽しそうに友達と議論を交わしていました。 彼らには暗記一辺倒の歴史授業では身につけられない、 分析能力のようなものが育っているんじゃないだろうかとも思えます。

 もちろん歴史教育において、 HowとWhyのどちらが多い方が良いのかは一概には言えないと思います。 生徒のレベルに合わせてHowが良い時もあれば、Whyの方が良い時もあります。 Whyの答えには主観が入りやすいので、正しい解釈かどうかわからないという問題点もあります。 ただ、歴史の授業でWhyの質問をされると、 頭が熱くなるのも確かです。 「歴史の授業(もしくは学習プロジェクト)やっているけど、 なーんかいまいち盛り上がらないんだよな〜」と悩んでいる日本人のそこのあなた! 知らず知らずHowの質問ばかりしていませんか? 学生はHowの質問に飽きていませんか? そんな時は、Whyを使ってみてはどうでしょう?

ゲームのプレースタイルと学習

本日紹介するのは、以下の文献。(2010/08/12のゲーミング勉強会にて担当した文献です)

Carrie Heeter(2008)Play Styles and Learning. Handbook of research on effective electronic gaming in education, 826-846.

ゲーム学習の方法やペアリングによって、学習の仕方がどう変化するかを実験している論文です。
しっかり実験がデザインされ、面白いデータが出ていたので、今回は主に実験内容を紹介します。

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目的
異なるプレーヤーは異なる方法でゲームをして、異なる学習者は異なる方法で学習するっていう前提で、本研究ではプレーヤーのタイプと学習について調査し、プレースタイルと学習のパレットを作ること目的としています。

背景:プレースタイルとプレーヤーのタイプ
●先行研究(一部カット)
Bartle(1990, 2006)
MUDというデジタルゲームにおけるプレースタイルを分類。結果、4タイプに分けられ、そのうち2つは他のプレーヤーと交流することを好む「socializer」と、不満を持って他のプレーヤーに害を与えようとする「killer」であることがわかったそうです。

Yee(2006)
MUDの3万人のプレーヤーを動機付けで分類。結果、「achievement」と「relationship」と「immersion(没頭)」と「manipukation(市場操作)」の4タイプに分けられるそうです。
また、MMOのプレーヤーは85%が男性で「achievement」「manipukation(市場操作)」が多いこと、女性は「relationship」が多いことが分かったそうです。

Klug & Schell(2006)
9つのプレーヤーのタイプを出しています。具体的には「competitor(競争者)」「exploer(探求者)」「collector」「achiever」「joker」「dierctor」「storyteller」「performer」「craftsman」の9つです。

Ko(2002)
推論的な問題解決を行わせるゲームにおいて、若者がどのようにプレイするかの違いを調査。結果、学習に向いていない「random guesser」と「problem solver」に分かれることが分かっています。

●先行研究のまとめ
大きくは2つ、さらにプレーの速度によって以下のように4つに分類しています。
(1)problem solvers
achiever:プレー早い(勝ち負けに興味あり)
explorer:プレー遅い(コンテンツに興味あり)
(2)random guessers
careless:プレー早い
lost:プレー遅い

●調査
Life Preserversという科学教育のためのゲームをもとに90人で実験。スコアと時間で順位を付け、50%のラインでそれぞれ上位群/下位群に分けて、上の4タイプに分類。
4タイプそれぞれを「クリアまでの時間」「間違った数」「1分当たりのクリック数」でまとめて、
実際の数値を出した所、以下のようになることがわかっています。

・achiever「クリアまでの時間:短い」「間違った数:少ない」「1分当たりのクリック数:多い」
・explorer 「クリアまでの時間:長い」「間違った数:少ない」「1分当たりのクリック数:少」
・careless「クリアまでの時間:短い」「間違った数:多い」「1分当たりのクリック数:多い」
・lost  「クリアまでの時間:長い」「間違った数:多い」「1分当たりのクリック数:少ない」

報酬の違いによるプレースタイルの変化
次に、以下の実験群に分けてlife Preserversを行わせています。
・何もボーナスを与えない統制群(以前のものを使用):90人
・スピードが早ければボーナスを与える群:90人
・試行錯誤(クリック)が多ければボーナスを与える群:90人

それぞれの群を合計してAchiever、Explorer、Careless、Lostの4タイプに分け、楽しみ具合(5間法)、女性率、誤答率、学習効果(11問のテスト得点)を比較しました。結果、

・女性はLostが多いこと
・AchieverとExplorerは楽しみ具合が高く、誤答率が低いこと
・Achieverは学習効果が高く、Lostは学習効果が低いこと
という特徴的なデータが出ています。

さらに、条件ごとのAchiever、Explorer、Careless、Lostの4タイプの割合を調べた結果、
・スピードでボーナスを与える群は、統制群よりもExplorerが減り、carelessが増える
・報酬でボーナスを与える群は、統制群よりもExplorerが増え、lostが減る
ことが分かりました。

ペア学習によるプレースタイルの変化
次に、中学1年生の156人を対象に、以下のグループに分けて同様の実験を行った。(ただし、マウスを使えるのは片方だけにし、もう一人はアドバイスなどをする立場になっている。)
・少女/少女のペア
・少年/少年のペア
・少女/少年の混合ペア

一人の時と比較した結果、以下のようなことがわかりました。

・少女/少女のペア
→一人の時とほとんど同じで、Lostが多いことがわかった。
・少年/少年のペア
→AchieverとCarelessが減り、Explorerが劇的に増えることがわかった。
・少女/少年の混合ペア
→Lostが急激に増えることがわかった。

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まとめ

実験とは別に、著者は先行研究のレビューによる学習スタイル、ゲーム方法など、52の要素をまとめて学習スタイルのパレットを作っています。(本文を参照して下さい)生徒の組み合わせは状態に適した方法で、教育的ゲームを導入することが重要であるという形で締めくくられています。

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感想
explorerを増やそうと思った場合、時間よりも試行回数を重視する方が良いという結果は、今の教育にも応用できる知見なんじゃないかな〜と思いました。それと、男子ペアにするとexplorerが増えるのに、女子ペアなら変化なし、男女ペアならlostが増えるっていうのも面白いですね。この実験データだけでは何とも言えませんが、僕の経験上でも男子ペアはお互いに突っ走るのを止めて、深く考えるようになっていたと思います。逆に、女子大生でペアを作らせて行った時は、ルールが把握できずにlostのような状態になっていました。教室でゲーム学習をさせる場合、性別の組み合わせ方にも注意しないといけないっていうのは、大切な観点かもしれませんね。