学会論文賞をいただきました

全国社会科教育学会から、2016年 研究奨励賞をいただきました!2016年の学会誌『社会科研究』に掲載された論文の中から1本選ばれる、いわゆる論文賞です。大変光栄です。ありがとうございます。

受賞論文は先日掲載された、「池尻良平, 澄川靖信(2016)真正な社会参画を促す世界史の授業開発 : その日のニュースと関連した歴史を検索できるシステムを用いて. 社会科研究, 84, 37-48.」(http://ci.nii.ac.jp/naid/40020897177)です。

今回の受賞論文は、実は4年越しで形になったものでして、本当に多くの方に育ていただいたものだと思っています。ものすごく長くなりますが、感謝の意も込めて少し書きたいと思います。

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僕が卒業した「学際情報学府」という大学院は、学問と学問の際の領域を研究するところで、僕は「教育工学×歴史学習」の領域で研究をしていました。指導教官は「教育工学」の先生だったので、教育工学の知識や文化などは自然と身についたのですが、「歴史学習」に関しては東大に研究室がなく、自力で文献を集めて勉強するしかありませんでした。なので、海外の文献や論文を読みまくっていたのですが、その際、『社会科研究』という国内の学会誌があることを知り、20年分ほどレビューをしていました。

中でも原田智仁教授の論文は自分の研究関心と近く、度々引用させていただいていました。そんなこんなで無事修論を書き終わり、『日本教育工学会論文誌』に投稿して無事採録された後くらいから、「歴史学習」の方にも学会参加し、論文を書きたいなと思うようになりました。

そこで2012年、当時博士課程2年生だった頃に、投稿論文用の原稿を2種類持って、まさに今年の開催大学である兵庫教育大学の原田智仁 教授に相談に伺いました。その時に、全国社会科教育学会の価値観や論文を執筆する時に気をつける方が良いこと、オススメの海外の文献、関心の近い全国社会科教育学会の先生方などを教えていただきました。

同じく2012年、初めて全国社会科教育学会全国研究大会に参加し、「歴史的知識の現代社会への転移に関する考察」というタイトルで発表をしました。その年の懇親会は、原田先生と当時他大学の院生で知り合いだった斉藤くんの2人としか話せる人がおらず、何とも寂しかった記憶があります。

その後、先ほどの発表原稿を修正して『社会科研究』に投稿したのですが、査読で不採録という結果になりました。僕が査読で指摘されたことを十分に理解できなかったのが原因でした。

翌年2013年の全国社会科教育学会では、斉藤くんの企画で「社会科教育研究は何のためにすべきか」というパネル式発表をしました。僕は「教育工学からみた社会科教育研究」という発表をしたのですが、司会をしてくださる草原和博先生と後藤賢次郎先生と打ち合わせをする機会があり、その際に「社会科教育」とは何かについてひたすら聞いていたのですが、それがとても勉強になり、ようやく査読で言われたことが何だったのかがわかり始めるようになりました。また、この年は受賞論文で触れている、ニュースと関連する歴史を自動で提示するシステムの構想をポスターで発表したのですが、大御所の先生方が気にいってくださったようで、論文投稿に向けて頑張って、とエールも贈っていただきました。

2013年4月、特任助教として研究者番号を与えられ、スタートアップという新米研究者が研究予算を獲得するための科研費を申請しました。結果が返ってくるのは9月なので、それまでは博論を執筆する日々を過ごしていました。

そんな時、大学院の情報処理系の友人である浅野くんの紹介で、コンパイラを研究している東京理科大学の澄川靖信くんと出会いました。受賞論文の共同研究者です。彼はバリバリの情報科学の院生だったのですが、僕のシステムの構想を話した時にすごく興味を持ってくれました。僕もプログラミングに興味があったので、彼の紹介してくれた情報科学の勉強会に参加したりもしていました。

そんな折、さっきの科研費の結果が返ってきたのですが、結果は不採択。がっくりしながら澄川くんに話をしていたんですが、その時、彼が「面白い研究なんだし、予算がなくてもやりましょうよ」と声をかけてくれました。この時の言葉は僕にとってはかなり救いで、それからは一生科研費が通らなくてもこの研究を形にしてやるぞと思うようになりました。

そして2013年10月に科研費を再度申請。2014年4月に採択され、予算がつくようになりました。それからは洋書を片っ端から買ったり、学会に行って情報収集を重ね、歴史のデータベースを作ったり、澄川くんと一緒にプロトタイプ作りに試行錯誤する日々でした。いや、本当に試行錯誤しました。教科書から因果関係を700個くらい抽出したり、新聞記事のデータを5000件近く読んでラベル付けしたりしました。この時期は本当に血反吐を吐きながら研究してました。また、この期間に澄川くん経由で知り合った京都大学のアダム先生からも、専門的な助言をいただき、研究が大きく進みました。

そして、ある程度開発も進んだ2015年の全国社会科教育学会で、草原先生から課題研究「中等教育における主権者育成のための授業論」に歴史科の分野で発表しませんかというオファーをいただきました。ちょうど開発していたシステムの方向性とも合っていたので、ぜひと引き受けさせていただきました。事前にコーディネーターや登壇者の他の先生と原稿を見合っては助言をし合い、結局12ページくらいの発表原稿になっていました。当日の発表でも多くの方にお越しいただき、フロアの方々から多くの質問をいただきました。

この発表はきちんと論文にしようと思い、いただいた助言や質問をもとに修正を加えて、 2015年冬に『社会科研究』に投稿。いただいた査読にも何とか回答でき、2016年に採録になりました。

そして10月7日〜8日に開催された全国社会科教育学会の総会で、今回の受賞をいただいたのです。受賞を発表下さったのは、学会長の原田先生。そして場所は、偶然にも初めて訪問した際の兵庫教育大学ということで、感極まりました。(ちなみに授賞式は来年なので、着席したままジーンとしていました。)受賞後も、編集委員の先生から「自分のことのように嬉しいよ」と言っていただいたり、多くの先生方からお祝いの言葉をいただきました。
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ものすごく長くなりましたが、何が言いたいかと言いますと、今回の論文はこれまで書いてきたように多くの人と出会い、多くの人に育ててもらいながら書き上げられたものだということです。もっというと、科研費は税金から捻出されているものなので納税者の皆様のおかげでもありますし、研究以外は本当に何もできない僕をサポートいただいた大学の事務の方々のおかげでもあります(イタリアのナポリ付近の学会参加の際、事務の方が気付いて下さらなければ、僕はヴェネチアのホテルから会場に向かう羽目になっていました)。

なので、今回の受賞は「嬉しい」よりも「僕は恵まれてるな。ありがたいな。」という気持ちの方が強く、なんか昨日からしんみりしています。本当にみなさま、ありがとうございました

それと同時に、ようやく論文的にも「教育工学×歴史学習」の研究者になれ、「学際情報学博士」としてのステップを1つ進められた気がしました。次は、英語雑誌でのフルペーパー採録を目指しつつ、自分なりの教育理論や哲学を育てていきたいと思っています。

ありがたいことに、今年度も「オンライン上での協調的な歴史的類推を促すグループ編成システムの開発と評価」という題目で科研費をいただけました。査読中の論文1本、執筆中の論文2本と別の論文も頑張っていますが、こちらの研究もきちんと論文化できるよう心血を注いで頑張りたいと思います。

2014年にやった4つの研究

(1)博士論文「歴史の応用を学習する方法の開発 −歴史的類推を現代の問題解決へ−」の完成
 今年一番大変だったことが、博士論文でした。学際情報学という、学問と学問の際を研究する大学院ということもあり、色々なご指摘をいただきながら自分なりに考え、ようやく1本の論文にまとめることができました。非常にハードな知的訓練でしたが、おかげさまでようやく自分が大学院でやってきたことを言語化できました。これと関連して、UTalkでゲストスピーチをしたり、d-labミッドタウンで講演をさせていただいたりと、社会への還元もさせていただきました。今後も研究普及に向けて頑張りますが(歴史学の本の共同執筆も進んでいます)、一つの区切りとして皆様にお礼申し上げます。

(2)自分の科研「歴史を現代社会の問題解決方略に転移させる学習メディアの開発と評価」
 博論が終わると同時に、次の研究に向けて科研費もいただきました。博論の次の研究は博士課程の頃から温めていた案なのでとても嬉しく、何だかようやく研究者になったんだなと実感しました。ニュースを通して歴史を学び、それを未来に活かしていく。そんな世界を目指して初めた研究ですが、歴史から因果関係を500個以上抽出したり、分類したり、プログラムを考えたりうちに難問がたくさん見つかり、苦しくも楽しく研究を進めております。2015年度の完成に向け、三元日も研究したいと思います(笑)

(3)JMOOC「日本中世の自由と平等」の反転授業の開発と評価
 4月開講された、日本発のMOOCの初めの講座「日本中世の自由と平等」の評価デザインと反転授業の開発も携わらせていただきました。2万人を超える受講生が何を学んでいるのかを歴史学習の研究の観点から評価できるように質問紙を作ったり、反転授業のデザインをしたりと、こちらもなかなかプレッシャーのかかる大仕事だったのですが、自分の専門性を活かせたプロジェクトに参加させていただき、とても良い経験をさせていただきました。2015年は論文化に向けて頑張りたいと思います。

(4)防災アプリ『首都直下地震72時間』の開発
 特任助教として雇っていただいている科研「学習者の状況および知識構造に対応したシナリオ型防災教育教材の開発」で、様々な学習者の状況に対応した防災シナリオ教材、『首都直下地震72時間』を開発・リリースしたことも今年の大きな思い出です。状況に対応する教材というコンセプトは僕自身の関心事でもあったので、最初は楽しく構成を考えていたのですが、いざ動かしてみると難しい問題が多々発生し、これまたなかなか苦楽しい経験でした。関東圏にお住まいの方はぜひ一度使ってみて下さいませ。


振り返ってみると、今年は色々開発したり、研究プロジェクトを走らせていた1年でした。2015年はこれらの研究をきちんと論文化・書籍化し、社会に還元していきたいと思います!

皆様、今年もありがとうございました!良いお年を!

3Dプリンタが歴史学習に与えるインパクト

最近、3Dプリンタが色々な領域でインパクトを与えています。3Dプリンタとは、3次元データを専用の印刷機に送って「物体」をプリントすることができるもので、医療、自動車、建設などの幅広い領域での応用が考えられています。個人的にはグーテンベルクの活版印刷術に匹敵する技術革新だと思っているのですが、他の領域と同様に歴史学習にもインパクトを与えると踏んでいます。

特に、地理情報が結びついている歴史的事象の理解と、歴史的文化財の形状観察による気付きの2つには効果的だと考えられます。例えば、民族の大移動や都市の発生、戦争時の侵攻ルートなどは地形という3次元情報と強く関係しています。従来の資料集では平面的なルートを示すのにとどまっていましたが、3Dプリンタを使うことでなぜここに都市が出来たのか、なぜここから侵攻したのかという分析や発見を促すことができるかもしれません。また、建築物や装飾品といった歴史的文化財の観察も歴史をより実感するために必要な学習フェーズです。これらも従来の資料集では2次元のカラー写真に限られていましたが、3Dプリンタを使えば実際に触ったり色々な角度から眺められるので、文化財の形状から気付きを促すことができるかもしれません。

これに加え、3Dプリンタの注目すべき点はその普及可能性にあります。現在3Dプリンタの値段は約4万5千円と手が届く範囲になってきており、学校への導入は夢物語ではありません*1。さらに、歴史に関する3次元データも全くない状況ではなく、例えば、ハーバード大学ではメソポタミア時代の考古学的価値を持つ彫刻を3Dプリンタで印刷できる取り組みを行っています*2。また、3Dプリンタ向けのデータではありませんが、Google Cultural Instituteではフランスの歴史上の建築物や都市図を3Dモデルでデジタル化している取り組みも行われています*3

(画像はGoogle Cultural Instituteが作成した1691年のモン・サン=ミシェル修道院の3Dモデル*3

将来的に歴史に関する3次元データが増えて3Dプリンタが社会的に広がれば、歴史の資料集は飛び出す絵本のようになるかもしれませんし、各学校に1台3Dプリンタがあれば、先生が歴史の授業で簡単に模型図を生徒に見せられる時代が来るかもしれません。もし当時の建物の中や備品まで3Dプリンタで印刷できたら、歴史の授業は毎回タイムスリップしているみたいになるんでしょうね。5年後くらいに、そんな研究もできたらいいなと思います。

参考URL
*1 約4万5000円でゲットできる安価な3Dプリンター「Robo3D」:GIGAZINE
*2 Harvard’s 3D-Printing Archaeologists Fix Ancient Artifacts:Wired
*3 立体地図を通して見るフランス:Google Cultural Institute

歴史と現在を融合させるフォトアートとその教育利用の可能性

最近Webを見ていて “The Ghosts of World War Ⅱ” という面白いアート作品を見つけました。これは、現在の写真上に第二次世界大戦時の写真を融合させる手法を取ったロシアの写真家 Sergey Larenkov 氏の作品で、非常に印象的なものになっています。

(全作品はhttp://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/the-ghosts-of-world-war-iisを参照下さい)

歴史と現在を融合させた研究としては、中杉・山内(2002)の「ウェアラブルコンピュータを用いた歴史学習支援システムの開発」があります。これは、特殊なコンピュータを使って、現在の東大の安田講堂に東大紛争時代の映像を重ね合わせるというシステムで、現在と歴史を重ね合わせることによって得られる強い心理的経験を買可能にしています。また、学習効果としては①探索学習の喚起②現在と過去をつなぐ視点の獲得の2つが挙げられています。

映像と画像という違いはあるものの、 “The Ghosts of World War Ⅱ” の作品も類似した学習効果を与えられるかもしれません。例えば下の写真を見せることで、「戦車ってこんなサイズなんだー」と歴史をリアルに感じるかもしれませんし、上の写真を見せることで「何でこんなに階段がボロボロなんだろう?」と探索学習の入り口を提供するかもしれません。また、第二次世界大戦のような大規模なテーマでなくても、昔の茶の間の写真を今の家のリビングの写真に合わせて生徒に見せることで、普段の食卓や服装の違いをリアルに感じさせることもできると思います。

Sergey Larenkov 氏はPhotoshopを使って今と昔の写真を融合させていますが、この手法は比較的教育現場でも導入が可能な手法だと思います。デジタルが苦手な人でも、透明なフィルムに歴史の写真を印刷して現在の写真を重ね合わせることでも代替できると思います。また、歴史の写真は国立国会図書館をはじめ、デジタル・アーカイブ化が進んでいるのでWeb上での入手も比較的簡単になってきています。歴史の授業を行う人は、一度試してみてはどうでしょうか?

 

参考文献・URL
・The Ghosts of World War Ⅱ
http://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/the-ghosts-of-world-war-iis
・中杉啓秋, 山内祐平(2002)ウェアラブルコンピュータを用いた歴史学習支援システ
ムの開発. 日本教育工学雑誌 26, 167-172.
http://ci.nii.ac.jp/naid/80015835744 

Facebookを使った歴史授業の可能性

アムステルダムの4e Gymnasiumが、Facebookのタイムラインを利用した世界史の授業を始めたのですが、実際に見てみてとてもクオリティが高いことに驚きました。あまりに感動したので自分のブログでも情報を集約しておきました。

まずは以下の動画で簡単に紹介しているのでご覧下さい。

(出典:http://www.youtube.com/watch?v=WLqGbdqmO6A

4e Gymnasiumの実践では現在4テーマが公開されているのですが、どれも非常に美しく眺めているだけでも十分に楽しいです。

・マゼランの航海(http://www.facebook.com/MagellansVoyage
・ 20世紀の発明史(http://www.facebook.com/20thCenturyInventions
・ 1950年以降のファッション史(http://www.facebook.com/Fashion1950Now
・ソビエト連邦の衰退(現在リンク切れ)

それぞれ年代のタイムラインに沿って関連動画や画像などをどんどん貼ることができるので、テーマ史を中心に生徒達に歴史をまとめさせる授業にも使えますし、コメント欄では生徒が質問もできるのでインタラクティブな授業も可能です。

似た取り組みは、今まで色んな研究者がHPやブログを中心に作ってきていましたが、僕の知る限りここまでインターフェースが美しく使いやすいものはなかったように思います。特にFacebookの場合は、リンク先を貼るだけで画像が出て来たり、写真のアップロードが簡単だったり、投稿に対する反応があった時に知らせてくれる機能があるので、学校現場での導入がよりスムーズに行えそうな印象を持ちました。

このようにみんなで歴史を再構築していく場合、生徒が参加しやすいかどうかは非常に重要なので、今後コンテンツが増えていけば一気に歴史の授業が変わる可能性があるように感じました。今後の展開に注目したいと思います。

参考URL:http://mashable.com/2012/09/17/facebook-timeline-history-lesson/

「良い疑問が生まれたか」という評価軸

最近の教育界では学習目標が高度になっている関係で、学習内容を評価するのが難しくなっています。ゲームを使った学習、ワークショップ、アクティブ・ラーニング、カフェ的なイベントなどをやられている方や、「創造性」や「生きる力」を評価しようとしている人にとっては、身に覚えのある悩みじゃないでしょうか。

この原因はシンプルで、
・学習効果がテストで測定できない
・将来に学習効果が発揮されるので活動直後だと測定できない
の2つが主な原因だと僕は分析しています。

僕の研究でも高度な歴史学習の効果を期待しているので、評価方法どうしよっかなーとよく悩んでいるのですが、McCallの”Gaming the Past”という本を読んでいて面白い評価方法を見つけました。この著者は、中学3年生に”Rome: Total war”というシミュレーション・ゲームを使った授業を行ったらしく、「どうやって学習効果を測定するんだろう?」と読み進めていると、彼はその授業後に出た生徒の疑問を列挙しながら、こんな記述を続けています。

「歴史をゲームで提示した時には、生徒達は歴史の専門家がするような疑問を出すことができた。紙の資料を提示した時や講義の時に、こんな疑問を出すだろうか?」

本人も書いているように実際の所は実験してみないとわかりませんが、確かに出てきた疑問の質は高い印象があって、少なくとも僕が中学の頃に受けた講義型の授業じゃこんな疑問出ねぇなと思いました。後、僕の経験でも、ゲームやワークショップをした後は、とても良い疑問や疑問が浮かんでいる印象があったので、なかなか説得力のある評価方法だなと思いました。

創造性を評価する場合でも、「生きる力」を評価する場合でも、学習効果そのものを評価することは難しいですが、その発端となる「良い疑問」はプログラム直後に出てきやすいので、「良い疑問→高度な学習効果」というロジックを作って評価軸にすることは有効かもしれません。具体的には、プログラム後にその領域の専門家が作る疑問と同じような疑問を生み出しているか(この基準に関してはまた別のブログで紹介したいと思います)という観点で評価を行うことなどが考えられます。

この評価軸を使うと講義に比べてどんな差が出るのか、一度研究で扱ってみたいと思っています。 

参考文献:McCall, J.(2012)”Gaming the Past: Using Video Games to Teach Secondary History”

“歴史を演じる” ことの学習効果

日本の歴史教育では教科書を読みつつ用語を暗記するというスタイルが主流ですが、海外の歴史教育ではアクティブな学習方法がどんどん開発されています。僕の研究領域でもあるので毎日そういった論文を読んでいるのですが、歴史を演じる(Performing History)という面白い学習方法とその効果を検証したアメリカの研究を見つけたので、紹介したいと思います。

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1990年代後半頃になると、海外の歴史学習研究者 LevstikやBeckやMcKeownらが行った1990年頃の研究によって、歴史は事実を羅列するだけではなく、事実はそのままの形で物語性を持たせ、登場人物や背景に共感させるテキスト形式の方が歴史の理解を向上させるということが明らかになっていました。

Otten率いる研究チームはこの歴史的共感とそれを促進する物語性に着目し、2001年にドラマの演技を学習方法に導入した実践を行いました。彼らはアメリカの小学5年生を対象に、”Performing History”というミュージカル風のドラマ型プログラムを作り、実際にMarquez校で1年間実施しました。ミュージカルには
・フィラデルフィアの奇跡( 1787年の合衆国憲法制定会議への対処 )
・ハロー、ルイジアナ( LewisとClarkの探検とルイジアナ購入 )
・水と力( 産業革命 )
の3種類が用意され、各時代の情報を吸収しながらリハーサルを行い、実際にドラマを実演するというプログラムを行ったそうです。

じゃあどうやってこの学習効果を測定したのかという話なのですが、彼らはMarquez校を含む72の異なる小学校から集まったPaul Reserve Middle Schoolの小学6年生440人を対象に歴史的事実の知識を測定する多肢選択テストを実施しています。このミュージカル風のドラマ型プログラムを行った学校はMarquez校だけなので、もしこのプログラムに効果があるなら、彼らのスコアと通常の教科書型の学校出身の生徒で違いが出るだろうと踏んだわけです。ちなみに問題はカリフォルニアの公立学校向けの内容標準テストから取っていて、それぞれ小学校4年生、5年生、6年生の3時点で実施しています。

その結果、ミュージカル風のドラマ型プログラムを行ったMarquez校出身の生徒の方が歴史の知識テストの得点が高いことがわかりました。「え?それって出身校の学力レベルの差なんじゃないの?」と思ったんですが、小学校4年生の時点ではMarquez校と他の学校間に「読み」「算数」「言語」「書き取り」の点数差はなく、小学校6年生の時点でも同じくこれらの点数差はなかったそうです。つまり、歴史のスコアだけが違うので、ドラマ型の歴史学習のプログラムが歴史の学習に良い影響を与えたと彼らは主張しています。ただし、テストで出題される領域はミュージカルでカバーされた範囲に絞って比較しているので、単純に同じ内容にかける時間の違いが影響として出ている可能性も十分あると読んでいて思いました。

ただし、それを差し引いても面白い結果がもう1つ出ています。それはドラマ型のプログラムを行ったMarquez校出身の生徒の方が「歴史を楽しい」と思っているスコアが高かったことです。また、パス分析を行った結果、テストスコアの向上には、歴史を楽しむ気持ちが部分的に関係していることもわかったそうです。

まとめると、ミュージカル風のドラマ型プログラムによって「歴史を楽しい」と思うようになり、通常の教科書型の小学校の生徒に比べてドラマで扱った分野の知識がより定着するという効果があるようです。

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人間の思考形式や認知作用には、①論理・実証モード(Paradigmatic Mode)と②ストーリーモード(Narrative Mode)の2種類があるといわれています(ブルーナー)。前者は「ある物事が正しいのか、間違っているのか」に注目していて、ロジカルシンキングによって育成されます。一方、後者は人間がどのような意図をもち、どのような行為を行い、何を経験し、どんな帰結にいたったのかという出来事の間のつながりや意味を感じ取る思考形式で、文脈や感情を捉えるのに適しているとされています。

これから考えると、ミュージカルのようなドラマ型の演技を取り入れて歴史的な文脈や登場人物の感情を知ってもらうという学習プログラムは、特に小学生にとってはなじみやすい思考形式なのかもしれないなと思います。日本の授業ではなかなか実施しずらいかもしれませんが、重要な歴史にフォーカスし、文化祭などで実施してみるのは良い方法かもしれませんね。

 
参考文献:Mark Otten, James W. Stigler, J. Arthur Woodward, and Lisle Staley (2004) Performing History: The Effects of a Dramatic Art Based History Program on Student Achievement and Enjoyment. Theory and Research in Social Studies, 32(2), 187-212

 

歴史教育での説明スタイル -日米間の違い

参考文献:渡辺雅子(2003)歴史教育における説明スタイルと能力評価 : 日米小学校の授業比較

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世界史の教育実習生がした咄嗟に出した質問「なんで?」

 先日、世界史の授業見学でお世話になっている高校に行った時のことです。 その日は、大学3年生の教育実習生が授業をするとのことだったので、 実習生の世界史の授業見学をさせてもらっていました。大ベテランの先生は型が決まっているので勉強になる一方、 実習生は色んなことを試行錯誤しているので、 普段は観察できない授業方法が生徒にどう受けるのかが見れてとても楽しかったです。

その中で最も面白かったのが、質問の仕方。 「ラテンアメリカの独立に影響を与えた国はどこだったと思う?」と質問をしたら、 生徒は「アメリカ!」とあまりにも簡単に答えられたので、 とっさに「なんで?」と質問を加えたんです。 そうしたら生徒は「え?なんでって…」と困った表情をして思考が一時停止。 でもしばらく考えた後に、ちゃんと答えを導いてしました。

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日米の歴史教育における説明スタイルの違い

 この現象、非常に面白くて、そもそも日本の歴史教育の説明スタイルはWhyがやや少ないんですね。 この点について、渡辺(2003)が面白い研究をしています。
彼女は、
・日本とアメリカの歴史教科書の説明スタイル
・日本とアメリカの教師の1授業中の説明スタイル
の2つを対象に、5W1Hがどの割合で使われているのかを分析・比較しています。

その結果、上位3つとその割合を示すと以下になります。
・教科書(日本)    1位:What(55.3%) 2位:How(31.6%) 3位:Why(10.5%)
・教科書(米)     1位:What(41.6%) 2位:Why(23.3%) 3位:How(21.1%)
・歴史教師の質問(日本)1位:What(39.7%) 2位:How(26.3%) 3位:Why(8.5%)
・歴史教師の質問(米) 1位:What(49.1%) 2位:Why(16.8%) 3位:How(12.7%)

まあWhatが両者1位は当然として、次に多いのが 日本はHow(どんな?)、アメリカがWhy(なぜ?)っていうのが非常に面白いですね。 

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なぜ、日米でこんな差が生まれるのか? 

 彼女の分析によると、 日本の歴史教育にHowが多い理由として、 学習指導要領で「関心・意欲・態度」が重視された結果、 歴史に共感する能力に重きをおく歴史があったからだとしています。
逆にアメリカの歴史教育にWhyが多い理由として2つ挙げています。 1つはベンジャミン・ブルームの分類の影響。 ブルームによると、習得すべき能力の順序として、 「知識」→「理解」→「応用」→「分析」→「統合」→「評価」となっています。 つまり、理解するだけでなく分析能力をつけるためにWhyが多くなったのだとしています。 もう1つは、クリティカルシンキングの影響です。 アメリカでは1960年代後半からクリティカルシンキングの動きが 発達していき、その影響で歴史教育にもWhyが多くなったのだとしています。

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HowとWhy、どっちが良いのか?

 ここからは歴史の授業を見学してきた僕の主観になるのですが、 歴史の授業でWhy型の質問をすると、高校生でも最初はかなり戸惑います。 これは上の実習生だけでなくベテランの場合もそうです。 というのも、WhatやHow(どんな状態だったか?など)は、 基本的には教科書や授業で習った内容をそのままリピートすれば良いのですが、 Why(なんで?)は習った内容を「つなげる」必要があるからです。 これはブルームの分類にもあるように、 知識を得て理解するよりもずっと高度な作業なので、 高校生には答えられない場合も多いです。 ただ、別の高校ですが、 日常的に「こうなったのはなんででしょう?」を テーマにした歴史授業を受けている生徒は、 とても頭を使い、非常に楽しそうに友達と議論を交わしていました。 彼らには暗記一辺倒の歴史授業では身につけられない、 分析能力のようなものが育っているんじゃないだろうかとも思えます。

 もちろん歴史教育において、 HowとWhyのどちらが多い方が良いのかは一概には言えないと思います。 生徒のレベルに合わせてHowが良い時もあれば、Whyの方が良い時もあります。 Whyの答えには主観が入りやすいので、正しい解釈かどうかわからないという問題点もあります。 ただ、歴史の授業でWhyの質問をされると、 頭が熱くなるのも確かです。 「歴史の授業(もしくは学習プロジェクト)やっているけど、 なーんかいまいち盛り上がらないんだよな〜」と悩んでいる日本人のそこのあなた! 知らず知らずHowの質問ばかりしていませんか? 学生はHowの質問に飽きていませんか? そんな時は、Whyを使ってみてはどうでしょう?