「良い疑問が生まれたか」という評価軸

最近の教育界では学習目標が高度になっている関係で、学習内容を評価するのが難しくなっています。ゲームを使った学習、ワークショップ、アクティブ・ラーニング、カフェ的なイベントなどをやられている方や、「創造性」や「生きる力」を評価しようとしている人にとっては、身に覚えのある悩みじゃないでしょうか。

この原因はシンプルで、
・学習効果がテストで測定できない
・将来に学習効果が発揮されるので活動直後だと測定できない
の2つが主な原因だと僕は分析しています。

僕の研究でも高度な歴史学習の効果を期待しているので、評価方法どうしよっかなーとよく悩んでいるのですが、McCallの”Gaming the Past”という本を読んでいて面白い評価方法を見つけました。この著者は、中学3年生に”Rome: Total war”というシミュレーション・ゲームを使った授業を行ったらしく、「どうやって学習効果を測定するんだろう?」と読み進めていると、彼はその授業後に出た生徒の疑問を列挙しながら、こんな記述を続けています。

「歴史をゲームで提示した時には、生徒達は歴史の専門家がするような疑問を出すことができた。紙の資料を提示した時や講義の時に、こんな疑問を出すだろうか?」

本人も書いているように実際の所は実験してみないとわかりませんが、確かに出てきた疑問の質は高い印象があって、少なくとも僕が中学の頃に受けた講義型の授業じゃこんな疑問出ねぇなと思いました。後、僕の経験でも、ゲームやワークショップをした後は、とても良い疑問や疑問が浮かんでいる印象があったので、なかなか説得力のある評価方法だなと思いました。

創造性を評価する場合でも、「生きる力」を評価する場合でも、学習効果そのものを評価することは難しいですが、その発端となる「良い疑問」はプログラム直後に出てきやすいので、「良い疑問→高度な学習効果」というロジックを作って評価軸にすることは有効かもしれません。具体的には、プログラム後にその領域の専門家が作る疑問と同じような疑問を生み出しているか(この基準に関してはまた別のブログで紹介したいと思います)という観点で評価を行うことなどが考えられます。

この評価軸を使うと講義に比べてどんな差が出るのか、一度研究で扱ってみたいと思っています。 

参考文献:McCall, J.(2012)”Gaming the Past: Using Video Games to Teach Secondary History”

“歴史を演じる” ことの学習効果

日本の歴史教育では教科書を読みつつ用語を暗記するというスタイルが主流ですが、海外の歴史教育ではアクティブな学習方法がどんどん開発されています。僕の研究領域でもあるので毎日そういった論文を読んでいるのですが、歴史を演じる(Performing History)という面白い学習方法とその効果を検証したアメリカの研究を見つけたので、紹介したいと思います。

——
1990年代後半頃になると、海外の歴史学習研究者 LevstikやBeckやMcKeownらが行った1990年頃の研究によって、歴史は事実を羅列するだけではなく、事実はそのままの形で物語性を持たせ、登場人物や背景に共感させるテキスト形式の方が歴史の理解を向上させるということが明らかになっていました。

Otten率いる研究チームはこの歴史的共感とそれを促進する物語性に着目し、2001年にドラマの演技を学習方法に導入した実践を行いました。彼らはアメリカの小学5年生を対象に、”Performing History”というミュージカル風のドラマ型プログラムを作り、実際にMarquez校で1年間実施しました。ミュージカルには
・フィラデルフィアの奇跡( 1787年の合衆国憲法制定会議への対処 )
・ハロー、ルイジアナ( LewisとClarkの探検とルイジアナ購入 )
・水と力( 産業革命 )
の3種類が用意され、各時代の情報を吸収しながらリハーサルを行い、実際にドラマを実演するというプログラムを行ったそうです。

じゃあどうやってこの学習効果を測定したのかという話なのですが、彼らはMarquez校を含む72の異なる小学校から集まったPaul Reserve Middle Schoolの小学6年生440人を対象に歴史的事実の知識を測定する多肢選択テストを実施しています。このミュージカル風のドラマ型プログラムを行った学校はMarquez校だけなので、もしこのプログラムに効果があるなら、彼らのスコアと通常の教科書型の学校出身の生徒で違いが出るだろうと踏んだわけです。ちなみに問題はカリフォルニアの公立学校向けの内容標準テストから取っていて、それぞれ小学校4年生、5年生、6年生の3時点で実施しています。

その結果、ミュージカル風のドラマ型プログラムを行ったMarquez校出身の生徒の方が歴史の知識テストの得点が高いことがわかりました。「え?それって出身校の学力レベルの差なんじゃないの?」と思ったんですが、小学校4年生の時点ではMarquez校と他の学校間に「読み」「算数」「言語」「書き取り」の点数差はなく、小学校6年生の時点でも同じくこれらの点数差はなかったそうです。つまり、歴史のスコアだけが違うので、ドラマ型の歴史学習のプログラムが歴史の学習に良い影響を与えたと彼らは主張しています。ただし、テストで出題される領域はミュージカルでカバーされた範囲に絞って比較しているので、単純に同じ内容にかける時間の違いが影響として出ている可能性も十分あると読んでいて思いました。

ただし、それを差し引いても面白い結果がもう1つ出ています。それはドラマ型のプログラムを行ったMarquez校出身の生徒の方が「歴史を楽しい」と思っているスコアが高かったことです。また、パス分析を行った結果、テストスコアの向上には、歴史を楽しむ気持ちが部分的に関係していることもわかったそうです。

まとめると、ミュージカル風のドラマ型プログラムによって「歴史を楽しい」と思うようになり、通常の教科書型の小学校の生徒に比べてドラマで扱った分野の知識がより定着するという効果があるようです。

——
人間の思考形式や認知作用には、①論理・実証モード(Paradigmatic Mode)と②ストーリーモード(Narrative Mode)の2種類があるといわれています(ブルーナー)。前者は「ある物事が正しいのか、間違っているのか」に注目していて、ロジカルシンキングによって育成されます。一方、後者は人間がどのような意図をもち、どのような行為を行い、何を経験し、どんな帰結にいたったのかという出来事の間のつながりや意味を感じ取る思考形式で、文脈や感情を捉えるのに適しているとされています。

これから考えると、ミュージカルのようなドラマ型の演技を取り入れて歴史的な文脈や登場人物の感情を知ってもらうという学習プログラムは、特に小学生にとってはなじみやすい思考形式なのかもしれないなと思います。日本の授業ではなかなか実施しずらいかもしれませんが、重要な歴史にフォーカスし、文化祭などで実施してみるのは良い方法かもしれませんね。

 
参考文献:Mark Otten, James W. Stigler, J. Arthur Woodward, and Lisle Staley (2004) Performing History: The Effects of a Dramatic Art Based History Program on Student Achievement and Enjoyment. Theory and Research in Social Studies, 32(2), 187-212

 

“Game × Learning × Kids” 開催報告

ゲーミング勉強会主催ワークショップ”Game × Learning × Kids”が、
9月3日に東京大学にて開催されました!

今回のワークショップは、ALEA factoryの柏野さんらをゲストとしてお招きし、“ちきゅUNO”というゲームをご提供いただいて親子で学習する形で開催しましたので、簡単にご報告したいと思います。

0.登壇者紹介

東京大学大学院の池尻(プレゼン・司会担当)Twitter:@ikejiriryohei
早稲田大学大学院の福山さん(運営担当)Twitter:@fumituki85 HPはこちら
東京大学大学院の浅見さん(運営担当)
ALEA factoryの柏野さん(Twitter:@kashinon ゲーム提供・ファシリテーター)、増田さん(ゲーム説明・ファシリテーター)、瀬下さん(Twitter:@seshiapple 議論進行)

 が自己紹介をいたしました。

  1.アイスブレイク

「あなたの地球はどんな地球?」と題して、1人ずつお題にそった地球の絵をかいて、どんなお題だったのかをグループ内で当て合うゲームをしました。もっとも間違いを少なくして当てきったチームの勝ちというゲームです。

 今回はこちらで用意した16の形容詞(「かっこいい」「いかつい」)の中から1つ選び、それと組み合わせた「地球」の絵を描いてもらいました。小学生も大人も思い思いの「地球」を描いて、グループ内のコミュニケーションを深めていきました!下の写真は「つよい地球」でとてもうまく描けていますね。一方で、「いかつい地球」のような難しいお題だとみんなで笑いながら悩んでいて、グループ内の結束感が高まりました。ちなみにこのゲームは福山さんが考えてくれました。

2.プレゼンテーション

 プレゼンテーションでは、池尻が「親子とゲーム学習」というタイトルで、今求められている能力としてスキーマやチャンクの話をし、知識を「使う」ことと「つなげる」ことの重要性を話しました。
 ただ、ゲームの登場により子どもたちは知識を使ったりつなげたりできる機会が増えている一方で、小学生が1人で学習するのは難しく、発達の再近接領域に踏み込むためには親の手助けが必要になってくるというお話をしました。
 それを踏まえて、お子さんにはいっぱい知識をつなげさせて、親御さんにはその手助けの方法を意識してもらいながら今回のゲーム、「ちきゅUNO」をプレイしてもらいました。

 

3.ゲーム体験

 さていよいよ「ちきゅUNO」の体験セッションです。説明は増田さんにしていただきました。このゲームは、裏側に国旗が描かれていて、表側には国名とその国のある地域、そして加盟している連合が描かれています。後はいつものUNOと同様、場に出されているカードと同じ地域、もしくは同じ連合のカードを手札から出していけます。先に手札を0にしたら、勝ちというゲームです。
 手札をなくすためには、手持ち国のカードがどこの地域に属しているか、どこの連合に加盟しているかを意識しないといけない、という作りです。
 今回はちょうど新デザインが出来たばかりで、子どもたちは新しいカードに夢中でした。ゲーム中は、子どもたちがカードをじっくり見ながら国同士のつながりを考えていたり、カードが出せて喜んでいるシーンが印象的でした。
 親御さんも一緒にあつくプレイをしつつ、子どもたちに対して連合の名前でなくマークに注目させて同じカードを出させるようにするといった工夫をしていました。下の写真は置ける連合を変えるカードを出しているシーンですが、自分の手札にある国のカードを出すにはどのマークを選べばいいのか親御さんがサポートする一面も見えました。

4.リフレクションとディスカッション

 瀬下さんの司会のもと、ちきゅUNOで楽しかった・覚えたことをポストイットや紙を敷いた机に書いてもらい、親御さんはどんなサポートを行った共有を行ってもらいました。
 子ども達は覚えた国旗をどんどんきれいに描いていって、名前もたくさん挙げていました。無我夢中で描いた子もいて、ちきゅUNOの学習効果の高さにびっくりしました!親御さんは子ども達をもう一回カードを並べてみたり、良いリレフクションを促す声かけをみんなでしていました。

5.ラップアップ

 最後に池尻が親御さん向けに、学習意欲を高めるためのモデルであるARCS理論を話し、ゲーム中の子ども達の写真を使いながらARCS理論の各要素である「注意」「関連性」「自信」「満足感」のシーンを映してリフレクションしました。面白かったことに、カードを覗き込むように見ている「注意」の写真、「手札に○○○があるからこの連合に変えてよ」と言っている「関連性」の写真、全部のカードを出してバンザイをしている「自信」の写真が見事に撮れて、今回のワークショップがARCS理論にも適っていることをみんなで確認しました。
 瀬下さんからは、ちきゅUNOを遊んだ子どもがすごい国旗の数を覚えたり、家に帰ってからもリビングで突然連名の名前を言ったりする子どももいるという話をしてもらい、今後の成長もとても楽しみだなと思いました。

 今回のワークショップは2時間半と短めでしたが、子ども達がとても元気で終始笑いが絶えなかったのが印象的でした。そして、ラップアップでも書いたようにゲームはその後の学びにもすごく影響を与えるので、ご参加いただいたご家族のみなさんがワークショップ後にもお子さんとちきゅUNOや色々なゲームを通して良い学びが起きればいいなあと思っています。

最後にファシリテーターとしてご参加いただいたALEA factoryのみなさん、

参加者の皆様に心より御礼を申し上げます。
次回のワークショップでまたお会いしましょう!

【告知】”Game × Learning × Kids”

   「この子の将来、学校の勉強だけで大丈夫かな?」
   「最近子どもがゲームにはまっているけれども、どう接したらいいかわからない」
    ご家庭でそう感じていらっしゃる親御さんはいないでしょうか?

    近年、学校では学びにくい内容を効果的に学ぶ方法として学習ゲームが注目されています。
    今回は、UNO形式で国際関係を学べる「ちきゅうUNO」というゲームを用いて、
    子どもが国際関係を学べるだけでなく親のサポートの仕方も学べるイベント、
     “Game × Learning × Kids” を用意しました!

    ワークショップ “Game × Learning × Kids” では、
    シリアスゲームを開発されているALEA factory(http://www.aleafactory.jp/
    ・代表:柏野尊徳さん(Twitter:@kashinon)慶応義塾大学総合政策学部
    ・サポーター:瀬下翔太さん をお招きし、以下のプログラムを行う予定です。

     1、親子の関係とゲームについてのプレゼンをした後、
     2、柏野さんらが開発した「ちきゅUNO」を実際に体験し、
     3、ゲームを用いた親子のより良い学びの可能性を考えていく

   ―――――――――――――――

   対象(抽選の上、親子24組まで)

   ・ゲームの教育効果や効果的な利用方法に関心のある親御様
   ・地理や国際関係のゲームに興味のある方
   ・面白いゲームで遊んでみたいお子様

    *今回は企画の趣旨上、親子1組での参加に限定します。
     ○親1人、お子様1人
     ○親2人、お子様1人
     ○親1人、お子様2人
     ×親1人、お子様3人
     ×親1人
     ×お子様1人

   *お子様は小学1年生から中学3年生までの方に限定します。
   *8月25日(木)23:59に登録締め切り
     8月26日(金)に当落の結果をメールで連絡致します。

   ―――――――――――――――

   参加費

   ・1組1000円 (会場設営費・飲み物代等に充当)

   ―――――――――――――――

    日時
     2011年9月4日(日) 14:00-16:30

   場所
    東京大学工学部2号館9F(地図はコチラ

   ―――――――――――――――

   プログラム

     ○13:40 開場
     ○14:00 開会 & アイスブレイク
     ○14:30 プレゼン「学びを進める親のゲームの関わり方(仮)」
      (プレゼン:東京大学大学院 池尻良平)
     ○14:50 ゲーム体験セッション「ちきゅUNO」
       (ゲーム進行:慶応義塾大学SFC 柏野さん)
     ○15:30 休憩
     ○15:40 ゲーム解説とディスカッション
     ○16:20 ラップアップ
     ○16:30 閉会

   ―――――――――――――――

   参加条件

    下記の諸条件をよくお読みの上、参加申し込みください。
    申し込みと同時に、諸条件についてはご承諾いただいているとみなします。

   1.ワークショップの様子は写真撮影・ビデオ撮影されます。
   2.写真や動画は学会・研究会・次回WSでの発表に許諾無く利用される場合があります。
  (ただし、利用は学術目的か非営利の目的に限り、個人は特定されないように配慮します。)

   *個人情報は、ワークショップに関する連絡のみに使用し、終了後破棄いたします。

   ―――――――――――――――

   ”Game × Learning × ???” とは、ゲーミング勉強会が主催しているワークショップで、

    1、勉強会で扱ったゲームの教育的効果を紹介し、
    2、参加者が実際にゲームを使ってあるテーマを学習し、
    3、教育的な効果や意義をみんなで考えていく

   というプログラムを毎回題材を変えながら実施しています。

   (前回の”Game × Learning × job”の活動記録はコチラ

【告知】”Game × Learning × job”

   ”Game × Learning × ???”は、ゲーミング勉強会が主催するワークショップで、

    1、勉強会で扱ったゲームの教育的効果を紹介し、
    2、参加者が実際にゲームを使ってあるテーマを学習し、
    3、教育的な効果や意義をみんなで考えていく

   というプログラムを実施しています。

(第1回 “Game × Learning × eco” の様子はコチラ

   今回はビジネスゲームを開発されている
   高橋興史さん(カレイドソリューションズ)(Twitter:@kojitakahashi)をお招きし、
    “Game × Learning × job”と題して

    1、ビジネスとゲームについてのプレゼンをした後、
    2、カレイドソリューションズの高橋さんが開発した
      ビジネスゲーム「パラダイス」を実際に体験し、
    3、会社で必要な学びとゲームの効果の可能性を考えていく
      というプログラムを行います。

   ―――――――――――――――

   対象(抽選の上30名まで)

   ・ゲームを利用した教育や学習に関心のある方
   ・研修や企業内教育に関心のある方
   ・面白いゲームで遊んでみたい方
   どなたでも参加いただけます。
   (ゲームを楽しめる方がより良い学びにつながります)

    *6月3日(金)23:59に登録締め切り
     6月4日(土)に当落の結果をメールで連絡致します。

   ―――――――――――――――

   参加費

   ・1000円(学生は500円)
    (会場設営費・飲み物代等に充当)

   ―――――――――――――――

   日時:2011年6月11日(土) 13:00~17:00

   場所:東京大学工学部2号館9F

    http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_04_03_j.html

   ―――――――――――――――

   プログラム

    ○12:40  開場
    ○13:00  開会 & アイスブレーク
    ○13:30  プレゼン「ビジネスゲームと学習」
     (プレゼン:早稲田大学大学院 福山佑樹)
    ○14:00  ゲーム体験セッション「パラダイス」
     (ゲーム進行:カレイドソリューションズ 高橋興史さん)
    ○15:40 休憩
    ○15:50 ゲーム解説とディスカッション
     (進行:福山佑樹 高橋興史さん)
    ○16:50 ラップアップ
    ○17:00 閉会

   ―――――――――――――――

   参加条件

   ・下記の諸条件をよくお読みの上、参加申し込みください。
     申し込みと同時に、諸条件についてはご承諾いただいているとみなします。

   1.ワークショップの様子は写真撮影・ビデオ撮影されます。
   2.写真や動画は、学会・研究会・次回のWSでの発表などに許諾無く利用される場合があ
ります。

   (ただし、利用は学術目的か非営利の目的に限ります)
   *個人情報は、ワークショップに関する連絡のみに使用し、終了後破棄いたします。

   お申し込みは締め切りました。

  ――――――――――――――――お問い合わせ――――――――――――――――――

   主催:ゲーミング勉強会
    ・浅見智子 東京大学大学院 学際情報学府修士2年
    ・池尻良平 東京大学大学院 学際情報学府博士2年
     (Twitter: http://twitter.com/ikejiriryohei)
    ・福山佑樹 早稲田大学大学院人間科学研究科博士1年
     (Twitter: http://twitter.com/fumituki85)

【書評】ストーリーの心理学

参考文献:ジェロム・ブルーナー(2007)『ストーリーの心理学–法・文学・生を結ぶ』ミネルヴァ書房


本書の概要

 ナラティブ(≒物語)やストーリーメイキングの特徴や構成要素を中心に、どのように使われているかを説明しています。また、論理的思考と異なるものとしてナラティブを位置づけた上で、「法的ナラティブ」「文学的ナラティブ」「自己(生)ナラティブ」の4つの例をもとに各ナラティブの違いに紹介しています。

 今回は個人的に興味深かった4つのポイントをかいつまんで紹介したいと思います。

(1)ストーリーメイキングの特徴

 ・ある特定の「意図」のもとでなされる。

 ・ある特定の「視点」から語られる。

 →1つの内容に関するストーリーであっても「語り手」「内容の主人公」「その他の登場人物」という複数の意図と視点が絡んだ、複数の景観ができます。ブルーナーはこれを「二重の景観」と呼び、重視しています。

(2)ストーリーの中心となるもの

 ストーリーにおいては、Kenneth Brukeがあげる「劇の五基礎」(主体・目的・手段・行為・状況)も大事だが、通常「ペリティア(急激な転倒、トラブル)」が中心になります。そして、そこからの脱出が重要な主題になります。ブルーナーは、優れたナラティブではその脱出が象徴的に一般化され、強い力をもった比喩として機能する点が重要だと考えています。(池尻注:カメとウサギの話し→「継続することが大事」みたいな)

(3)ナラティブ(ストーリー物語)の分類とその特徴

 ブルーナーはナラティブの種類を分析し、大きく以下の4つに分類しています。

1. 法的ナラティブ(対立的)

 原告と被告で同一の事象に対して二つの異なるストーリーが作られているものです。法的ストーリーは過去を受け継ぐことによって法的秩序の意維持をはかろうとする「継承的ストーリー」であり、そこでの法的正統性は過去の先例への一致度合いで測られます。なお法的ストーリーは、日常的ストーリーが法的手続きにそった場合のみ作られ、事実の再解釈なども行えるが、事実にもとづくことが常に要求されるという特徴を持っています。

2. 文学的ナラティブ(独自的)

 文学的ストーリーでは見かけの現実性を利用しつつ、現実を「仮定法化」します。そのため、そこで提示する慣習化された現実性を破る可能態が一つの迫真性をもち、人々に世界を見直す新たな目を拓く点が特徴です。

3. 自己ナラティブ(自己内対話的)

 自己はたえず再構成を重ねてゆくものであって、自己形成のストーリーが自己を型化します。その際、「自分に関わるどのイベントを語るか」「自分をどのような観点から誰に向けて語るか」によって複数のストーリー作りが可能になります。また、文化そのものの中にも長い歴史の中でナラティブの原型が多くの形で内蔵され、蓄積され準備されており、ブルーナーはこれも自己ナラティブに含めています。

4. 臨床的ナラティブ(共同的)

 カウンセリングにおけるナラティブです。法的ストーリーと違い、対立的ではなく共同的なストーリーになります。

*法的ナラティブが慣行的な過去の記録の体系(法大全)に向かう一方で、文学的ナラティブは象徴的可能性や創造性に向かう点で対極的です。ただし、実際の裁判でも個人の新たな文学的ナラティブをもとに慣例が修正されることがあるように、両者は相容れないものではないと説明されています。

(4)ナラティブの意義

 ブルーナーの説明によると、一つの同じことをめぐって多くの対立が起こる結果、解釈の異なる立場や見方から様々なストーリーが作られることになります。そして、それらを互いにつきあわせられる中で、そこから可能な限り有効な解決がはかられ、すぐれた法律、臨床、文化を生み出すことにつながります。このように、様々な解釈を取り込んで一段階高いものを生み出せることこそが、ナラティブの持つ意義のようです。

ということでサラッと紹介しましたが、本書では先行研究の紹介や各ナラティブの具体例が満載になっているので、興味のある方はぜひ一読してみて下さい。

おしまい

高校生向け学習イベントをハードファンにするコツ

 先日、とある高校で大学教授が機械工学を実際に体験してみようという高校生向けの学習イベントが行われ、僕もたまたま参加させてもらいました。

イベントの流れとしては以下のようなシンプルな構成ですが、大学側が学問的な内容で高校生にイベントをする際に(おそらく)意識されていた仕掛けが2つあり、それが面白かったので簡単に紹介を。

*イベントの流れはこんな感じ

1 機械工学ってどういうものかの説明(パワポで)

2 社会でどれだけ役に立っているのかの説明(パワポで)

3 機械の簡単な仕組み「リンク機構」を高校数学で解説

 (リンクと呼ばれる棒が2本くっついた三角形に円運動をさせる仕組み)

4 厚紙と分度器、コンパス、ハトメなどを用いて高校生がリンク機構を設計する

 —

(1)実際の機械の仕組みを学校の数学に結びつけまくる

 とても印象的だったのが、三角形がジョイントされた棒2本でぐるぐる円運動する構造を説明する際に、で全て説明し、逐一「これは三角平方を使えば出せます!中学校で習ったやつですね〜!これは余弦定理で角度が出せますね!高校2年生で習うやつです!」と学校のカリキュラムに引きつけていることです。

 実際に4で行う機械の仕組みの設計自体は大学2年生レベルのもので、ちょっと敷居が高い感じもしたのですが、これだけ「習ったことを使ったらできるんだよ!簡単簡単」「これなんかとっくに習ったもんね!」と念を押すことで、課題はハードそうだけど自分たちにでもできるんだと思わせ、いわゆるハード・ファンな活動にチャレンジさせる流れができていました。

 工学にしろ、歴史学にしろ、大学で行っている学問的な内容を扱うとどうしても高校の教科とのギャップを感じさせがちですが、普段学校で習っていることとつなげてあげることでチャレンジ精神をキープさせられ、その学問の持つファンな部分に到達させられるんじゃないかと思います。

(2)教科書の世界では生まれない、緩くて面白いトラブルを起こす

 もう1つ印象的だったのが、機械を作ってみてはじめてわかるトラブルがぼこぼこ生まれていたことです。

 今回の場合は、可動する三角形の大きさを5種類用意し、どういう起動で円運動させたいかを生徒一人一人に決めさせていました。基本は自分で決めた3点を通る軌道に通るようにリンク機構を設計させていたのですが、軌道を楕円にする子もいれば、8の字にチャレンジする子もいました。

 自分の好きな軌道で設計しているので、当然ここからはどんどんトラブルが起こります。しかし、これがまた座学では体験できない良質なトラブルで、しかもギリギリ乗り越えられるトラブルなのです。ここでは3つ紹介しましょう。

1. ある生徒は、好きに軌道を描いてそれに合ったリンクの動きを求めていたら、案外リンクが長くなってしまい、紙からはみ出してしまったんです。その後、もう1枚紙をもらって、今度はどうやったら紙に収まるようにできるかを考えていました。同じ問題を抱えて考えているうちに指をパチン!と鳴らす子もいました。

2. ある生徒は、軌道を通る動きはできたものの、機構の動きが思ったよりもぐるんぐるんしなくて「なんか動きが小さくなってつまんないんだけど、何でだろう?」と隣の生徒に話しかけていました。2人はその後、大きくぐるんぐるん動く要因を考え、「2本の棒(リンク)が同じ長さになると小さくなるんじゃないか」など色々な仮説を出し合い、他の生徒の作品を見ながら仮説を確認していました。

3. また大多数の生徒は、三角形とリンク(棒)になる紙をハトメでジョイントすると、三角形がリンクに引っかかってうまく1周しないというトラブルが起きました。これが非常に面白くて、2次元で図形を書くだけだとうまく1周回るはずなのに、実際に作ってみると3次元なので「層」をちゃんと意識しないと回らないんですね。生徒達は指で無理矢理ぐにぐにまわしてみたり、紙同士のジョイントの順番を変えたりしながら、原因を探り、徐々に層の必要性が大事なんだとわかっていっていました。

 こういうトラブルに共通していることが「リアルな世界でのトラブル」だという点です。「高校の教科で習ったことを駆使すると、機械って作れるんだ!」と思わせつつも、「ノートと教科書の世界だけじゃうまくいかないこともあるんだなあ」とも思わせているんですね。そして、そのトラブルは模擬試験のように解答へのアプローチが全く思いつかないレベルではなく、実際に手を動かして試行錯誤を重ねることで帰納的に解答へのアプローチが見えてくるレベルになっているのが特徴的な点です。

まとめると、今回のイベントでは高校生に対して、

高校までに習った内容と強烈に結びつけて「やれる感」を与えてあげること

普段の教科書内の世界では体験できないトラブルを生み出して試行錯誤を促すこと

の2つが仕掛けが盛り込まれていたと思います。

「高校生が簡単にこなしてしまって盛り上がらない」

もしくは

「内容が難しくなりすぎて高校生がついてきてくれない」

と悩んでいる方は参考にしてみてはいかがでしょうか?

シリアスゲームの教育的特徴

参考文献:藤本徹(2007)シリアスゲーム. 東京電機大学出版会.
     マーク・プレンスキー(2009)デジタルゲーム学習. 東京電機大学出版会.
     山内祐平(2010)デジタル教材の教育学. 東京大学出版会.

シリアスゲームとは?

 藤本(2007)ではシリアスゲームをこう定義しています。

 「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」

 ポイントは、通常のゲームと違い教育の意図があることと、学校教育、企業内研修、公共政策、軍事、政治、医療・福祉など諸領域の「問題解決」がゲームのベースになっているという点です。
 あれこれと説明する前に、「百聞は一見に如かず」ということでまずは実際にシリアスゲームをやってみましょう。以下に無料で体験できるシリアスゲームの代表的なものを紹介しますので、試しに興味のあるものをやってみて下さい。

(1)フードフォース(http://www.foodforce.konami.jp/about.html>)
 国連の世界食料計画(WFP)が開発した、人道支援が目的のシミュレーションゲームです。内容は、インド洋に浮かぶ仮想の島で多くの難民に食料を供給するゲームです。公開6週間で100万ダウンロードを記録した世界的ヒット作です。Windowsなら日本語版でも遊べます。時間もさほどかからずクリアできるので、初心者におすすめです。(Macの方は、英語版をダウンロードして下さい。(http://www.wfp.org/how-to-help/individuals/food-force) 

(2)Virtual U(http://www.virtual-u.org/downloads/
 こちらもシリアスゲームが注目されるようになったきっかけのゲームで、大学経営を学習するシミュレーションゲームです。プレイヤーは学長になって、限られた予算を使いながら教員を雇ったり、学内の学習環境を整備したりして、他の大学よりも優秀な成果を出すのがゴールです。英語版なのでやや難しいですが、かなり細かい変数が用意されていて、本格的に学習できるゲームです。

(3)America’s Army(http://www.americasarmy.com/
 これもシリアスゲームの有名な作品で、米陸軍が新兵募集のためのマーケティングツールとして開発したゲームです。実際の射撃や作戦行動の訓練過程を精密に再現しており、登場する施設や武器や服装などは実際のもので構成されています。基本は一人称視点で描写されるシューティングゲームですが、現在はオンラインで他のプレイヤーと共同でミッションをこなすモードも作られています。一般で売られているゲームにも引けを取らないできだと評価されています。Windows推奨です。

(4)Stop Disaster!(http://www.stopdisastersgame.org/en/home.html
 これは、津波、山火事、洪水、ハリケーン、地震の五つの災害被害をできるだけ減らすというゲームです。非常にシンプルな作りで、学校や病院など必要な施設を建てつつ、ゲームの最後に必ず襲う災害からその建物を守れればクリアとなっています。難易度も選べるので初心者でも楽しめます。*音量が出るので注意して下さい。

 

シリアスゲームを教育に利用するメリット

 さて、やってみた印象はどうですか?すごい!と思う方もいれば、別にわざわざゲームで教育しなくても教科書で勉強したり、体験学習で事足りるのでは?と思われた方もいると思います。
 では、シリアスゲームをもつメリットは何なのでしょうか?藤本(2007)はそのメリットとして以下の5つを挙げています。

モチベーションの喚起・維持
 これは最も基本的なメリットで、ゲームを利用することで生じる「新奇性」、「インタラクティブ性」などいくつかの要因が働いていると言われています。

全体像の把握や活動プロセスの理解
 ゲームは世界のメカニズムが描写されたり、動的な動きの再現が行われたりするので、全体を俯瞰した形でプレイヤーの意思決定や行動の結果が視覚的に確認できます。ゲームでは現実の時間より何倍も早く時間を進めることもできるので、特に都市開発や経営方法を扱うゲームでは非常に役立ちます。
 上で挙げた大学経営をするゲーム「Virtual U」や、自分で都市開発をするゲーム「シムシティ」、自分で文明を構築していくシミュレーションゲーム「シヴィライゼーション」などが良い例です。

安全な環境での体験学習
 これはシリアスゲームを使うかなり重要なメリットです。ゲーム内の世界は現実に直接影響しないコントロールされた環境なので、直接的な体験学習では行えない体験が可能になります。
 上で挙げたアーミーがこれに当たります。飛行機や車の操縦、手術などの医療活動など、学習内容にリスクが伴うものほど、恩恵は大きくなります。

重要な学習項目を強調した学習体験
 現実世界では関係する変数の数が多すぎたり、構造が複雑になりすぎて何を学習すべきかよくわからなくなってしまうことが多々ありますが、ゲームでは特に学習させたいポイントだけ強調し、残りの部分は単純化させることができます。

行為・失敗を通した学習
 これはゲームを通した学習で特に強調されるメリットです。ゲームというのは、何かを「プレイ」することになるので、必然的に行為を通した学習(Learning by Doing)と相性が良くなります。さらに、ゲームではコンティニューが可能なので、何度失敗しても大丈夫だというメリットがあります。
 失敗を通した学習の価値はロジャー・シャンクなどをはじめ、多くの学習理論研究者達が認めており、試行錯誤の中で失敗しつつフライトや手術の技能、経営方法や国の政策などを学べるシリアスゲームは、ロジャー・シャンクの言う「失敗を通した学習」に最適だと言えます。(これは従来の教育とは大きく異なるポイントだと思います)

 これ以外にも、シリアスゲームはとても多くの学習テクニックと相性が良く、プレンスキー(2009)は「練習とフィードバック」「ゴール志向型学習」「探索学習、ガイド付き探索学習」「課題に基づいた学習」「質問先導型学習」「状況的学習」「ロールプレイ」「コーチング」「構成主義的学習」「(多感的な)加速学習」「学習オブジェクトの選択」「インテリジェントチューター」などの学習上のメリットを挙げています。


シリアスゲームの導入は徐々に現実的に

(1)コンテンツの充実
 シリアスゲームに対する注目は2000年以降世界的に高まり、アメリカをはじめヨーロッパでも様々なセッションが開かれ、多くの研究グループが形成されています。また、世界中で多くのシリアスゲームが開発され、多様な場面で利用できるコンテンツも揃ってきています。(詳しくは参考文献の「デジタルゲーム学習」をご覧下さい。企業向けのものだけでも40以上のシリアスゲームがあります。)

(2)デジタルネイティブの登場
 同時に、教育の対象である子どもたちもいわゆるデジタルネイティブの世代になり、「単線処理→並行処理」「従来のスピード→トゥイッチスピード」「順序に沿った思考→ランダムアクセス」「テキスト先行→グラフィック先行」「スタンドアローン→ネットワーク」「受動的→能動的」「ワーク→プレイ」「我慢→報酬」というように、従来とは異なる認知スタイルに変化していることがプレンスキー(2009)によって指摘されています。彼は、デジタルネイティブの世代はシリアスゲームによる学習と相性が良いとも主張しています。

(3)ゲーム環境の発達・整備
 一方、テクノロジーの発達・導入も進んでいます。例えば近年では、インターネットの成長により、大規模多人数参加型オンラインゲーム(Massively Multiplayer Online game、通称”MMO”)も可能になり、複数のプレイヤーと一緒にシリアスゲームをプレイし、プレイヤー同士で協調学習を行ったり、学び合うことも可能になっています。
 さらに、日本の学校ではICT導入が進み、シリアスゲームに必要な環境も着々と揃っています。近年騒がれている電子教科書もそうですが、日本に限って言えば、シリアスゲームを用いるのに十分な環境が整備されつつあります。


 近代の学校教育では、教科書を読み、先生の話しを聞き、紙に書くというのが主流でした。それが最近の学校教育では、話しを聞くだけでなく、視聴覚教材によってより豊かにイメージを膨らませたり、グループで協調学習をして生徒達が自分たちで能動的に考え合うという新しい活動がプラスされるようになりました。
 そして今、環境・生徒の認知的スタイル・シリアスゲーム研究の蓄積によって、「実際に学んだことを試してみる」という新しい活動がプラスできるようになりました。 
 この先、「シリアスゲーム」というキーワードが学びの世界で重要なインパクトを与えることは間違いなさそうです。

歴史教育での説明スタイル -日米間の違い

参考文献:渡辺雅子(2003)歴史教育における説明スタイルと能力評価 : 日米小学校の授業比較

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世界史の教育実習生がした咄嗟に出した質問「なんで?」

 先日、世界史の授業見学でお世話になっている高校に行った時のことです。 その日は、大学3年生の教育実習生が授業をするとのことだったので、 実習生の世界史の授業見学をさせてもらっていました。大ベテランの先生は型が決まっているので勉強になる一方、 実習生は色んなことを試行錯誤しているので、 普段は観察できない授業方法が生徒にどう受けるのかが見れてとても楽しかったです。

その中で最も面白かったのが、質問の仕方。 「ラテンアメリカの独立に影響を与えた国はどこだったと思う?」と質問をしたら、 生徒は「アメリカ!」とあまりにも簡単に答えられたので、 とっさに「なんで?」と質問を加えたんです。 そうしたら生徒は「え?なんでって…」と困った表情をして思考が一時停止。 でもしばらく考えた後に、ちゃんと答えを導いてしました。

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日米の歴史教育における説明スタイルの違い

 この現象、非常に面白くて、そもそも日本の歴史教育の説明スタイルはWhyがやや少ないんですね。 この点について、渡辺(2003)が面白い研究をしています。
彼女は、
・日本とアメリカの歴史教科書の説明スタイル
・日本とアメリカの教師の1授業中の説明スタイル
の2つを対象に、5W1Hがどの割合で使われているのかを分析・比較しています。

その結果、上位3つとその割合を示すと以下になります。
・教科書(日本)    1位:What(55.3%) 2位:How(31.6%) 3位:Why(10.5%)
・教科書(米)     1位:What(41.6%) 2位:Why(23.3%) 3位:How(21.1%)
・歴史教師の質問(日本)1位:What(39.7%) 2位:How(26.3%) 3位:Why(8.5%)
・歴史教師の質問(米) 1位:What(49.1%) 2位:Why(16.8%) 3位:How(12.7%)

まあWhatが両者1位は当然として、次に多いのが 日本はHow(どんな?)、アメリカがWhy(なぜ?)っていうのが非常に面白いですね。 

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なぜ、日米でこんな差が生まれるのか? 

 彼女の分析によると、 日本の歴史教育にHowが多い理由として、 学習指導要領で「関心・意欲・態度」が重視された結果、 歴史に共感する能力に重きをおく歴史があったからだとしています。
逆にアメリカの歴史教育にWhyが多い理由として2つ挙げています。 1つはベンジャミン・ブルームの分類の影響。 ブルームによると、習得すべき能力の順序として、 「知識」→「理解」→「応用」→「分析」→「統合」→「評価」となっています。 つまり、理解するだけでなく分析能力をつけるためにWhyが多くなったのだとしています。 もう1つは、クリティカルシンキングの影響です。 アメリカでは1960年代後半からクリティカルシンキングの動きが 発達していき、その影響で歴史教育にもWhyが多くなったのだとしています。

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HowとWhy、どっちが良いのか?

 ここからは歴史の授業を見学してきた僕の主観になるのですが、 歴史の授業でWhy型の質問をすると、高校生でも最初はかなり戸惑います。 これは上の実習生だけでなくベテランの場合もそうです。 というのも、WhatやHow(どんな状態だったか?など)は、 基本的には教科書や授業で習った内容をそのままリピートすれば良いのですが、 Why(なんで?)は習った内容を「つなげる」必要があるからです。 これはブルームの分類にもあるように、 知識を得て理解するよりもずっと高度な作業なので、 高校生には答えられない場合も多いです。 ただ、別の高校ですが、 日常的に「こうなったのはなんででしょう?」を テーマにした歴史授業を受けている生徒は、 とても頭を使い、非常に楽しそうに友達と議論を交わしていました。 彼らには暗記一辺倒の歴史授業では身につけられない、 分析能力のようなものが育っているんじゃないだろうかとも思えます。

 もちろん歴史教育において、 HowとWhyのどちらが多い方が良いのかは一概には言えないと思います。 生徒のレベルに合わせてHowが良い時もあれば、Whyの方が良い時もあります。 Whyの答えには主観が入りやすいので、正しい解釈かどうかわからないという問題点もあります。 ただ、歴史の授業でWhyの質問をされると、 頭が熱くなるのも確かです。 「歴史の授業(もしくは学習プロジェクト)やっているけど、 なーんかいまいち盛り上がらないんだよな〜」と悩んでいる日本人のそこのあなた! 知らず知らずHowの質問ばかりしていませんか? 学生はHowの質問に飽きていませんか? そんな時は、Whyを使ってみてはどうでしょう?

ゲームのプレースタイルと学習

本日紹介するのは、以下の文献。(2010/08/12のゲーミング勉強会にて担当した文献です)

Carrie Heeter(2008)Play Styles and Learning. Handbook of research on effective electronic gaming in education, 826-846.

ゲーム学習の方法やペアリングによって、学習の仕方がどう変化するかを実験している論文です。
しっかり実験がデザインされ、面白いデータが出ていたので、今回は主に実験内容を紹介します。

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目的
異なるプレーヤーは異なる方法でゲームをして、異なる学習者は異なる方法で学習するっていう前提で、本研究ではプレーヤーのタイプと学習について調査し、プレースタイルと学習のパレットを作ること目的としています。

背景:プレースタイルとプレーヤーのタイプ
●先行研究(一部カット)
Bartle(1990, 2006)
MUDというデジタルゲームにおけるプレースタイルを分類。結果、4タイプに分けられ、そのうち2つは他のプレーヤーと交流することを好む「socializer」と、不満を持って他のプレーヤーに害を与えようとする「killer」であることがわかったそうです。

Yee(2006)
MUDの3万人のプレーヤーを動機付けで分類。結果、「achievement」と「relationship」と「immersion(没頭)」と「manipukation(市場操作)」の4タイプに分けられるそうです。
また、MMOのプレーヤーは85%が男性で「achievement」「manipukation(市場操作)」が多いこと、女性は「relationship」が多いことが分かったそうです。

Klug & Schell(2006)
9つのプレーヤーのタイプを出しています。具体的には「competitor(競争者)」「exploer(探求者)」「collector」「achiever」「joker」「dierctor」「storyteller」「performer」「craftsman」の9つです。

Ko(2002)
推論的な問題解決を行わせるゲームにおいて、若者がどのようにプレイするかの違いを調査。結果、学習に向いていない「random guesser」と「problem solver」に分かれることが分かっています。

●先行研究のまとめ
大きくは2つ、さらにプレーの速度によって以下のように4つに分類しています。
(1)problem solvers
achiever:プレー早い(勝ち負けに興味あり)
explorer:プレー遅い(コンテンツに興味あり)
(2)random guessers
careless:プレー早い
lost:プレー遅い

●調査
Life Preserversという科学教育のためのゲームをもとに90人で実験。スコアと時間で順位を付け、50%のラインでそれぞれ上位群/下位群に分けて、上の4タイプに分類。
4タイプそれぞれを「クリアまでの時間」「間違った数」「1分当たりのクリック数」でまとめて、
実際の数値を出した所、以下のようになることがわかっています。

・achiever「クリアまでの時間:短い」「間違った数:少ない」「1分当たりのクリック数:多い」
・explorer 「クリアまでの時間:長い」「間違った数:少ない」「1分当たりのクリック数:少」
・careless「クリアまでの時間:短い」「間違った数:多い」「1分当たりのクリック数:多い」
・lost  「クリアまでの時間:長い」「間違った数:多い」「1分当たりのクリック数:少ない」

報酬の違いによるプレースタイルの変化
次に、以下の実験群に分けてlife Preserversを行わせています。
・何もボーナスを与えない統制群(以前のものを使用):90人
・スピードが早ければボーナスを与える群:90人
・試行錯誤(クリック)が多ければボーナスを与える群:90人

それぞれの群を合計してAchiever、Explorer、Careless、Lostの4タイプに分け、楽しみ具合(5間法)、女性率、誤答率、学習効果(11問のテスト得点)を比較しました。結果、

・女性はLostが多いこと
・AchieverとExplorerは楽しみ具合が高く、誤答率が低いこと
・Achieverは学習効果が高く、Lostは学習効果が低いこと
という特徴的なデータが出ています。

さらに、条件ごとのAchiever、Explorer、Careless、Lostの4タイプの割合を調べた結果、
・スピードでボーナスを与える群は、統制群よりもExplorerが減り、carelessが増える
・報酬でボーナスを与える群は、統制群よりもExplorerが増え、lostが減る
ことが分かりました。

ペア学習によるプレースタイルの変化
次に、中学1年生の156人を対象に、以下のグループに分けて同様の実験を行った。(ただし、マウスを使えるのは片方だけにし、もう一人はアドバイスなどをする立場になっている。)
・少女/少女のペア
・少年/少年のペア
・少女/少年の混合ペア

一人の時と比較した結果、以下のようなことがわかりました。

・少女/少女のペア
→一人の時とほとんど同じで、Lostが多いことがわかった。
・少年/少年のペア
→AchieverとCarelessが減り、Explorerが劇的に増えることがわかった。
・少女/少年の混合ペア
→Lostが急激に増えることがわかった。

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まとめ

実験とは別に、著者は先行研究のレビューによる学習スタイル、ゲーム方法など、52の要素をまとめて学習スタイルのパレットを作っています。(本文を参照して下さい)生徒の組み合わせは状態に適した方法で、教育的ゲームを導入することが重要であるという形で締めくくられています。

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感想
explorerを増やそうと思った場合、時間よりも試行回数を重視する方が良いという結果は、今の教育にも応用できる知見なんじゃないかな〜と思いました。それと、男子ペアにするとexplorerが増えるのに、女子ペアなら変化なし、男女ペアならlostが増えるっていうのも面白いですね。この実験データだけでは何とも言えませんが、僕の経験上でも男子ペアはお互いに突っ走るのを止めて、深く考えるようになっていたと思います。逆に、女子大生でペアを作らせて行った時は、ルールが把握できずにlostのような状態になっていました。教室でゲーム学習をさせる場合、性別の組み合わせ方にも注意しないといけないっていうのは、大切な観点かもしれませんね。