シリアスゲームの教育的特徴

参考文献:藤本徹(2007)シリアスゲーム. 東京電機大学出版会.
     マーク・プレンスキー(2009)デジタルゲーム学習. 東京電機大学出版会.
     山内祐平(2010)デジタル教材の教育学. 東京大学出版会.

シリアスゲームとは?

 藤本(2007)ではシリアスゲームをこう定義しています。

 「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」

 ポイントは、通常のゲームと違い教育の意図があることと、学校教育、企業内研修、公共政策、軍事、政治、医療・福祉など諸領域の「問題解決」がゲームのベースになっているという点です。
 あれこれと説明する前に、「百聞は一見に如かず」ということでまずは実際にシリアスゲームをやってみましょう。以下に無料で体験できるシリアスゲームの代表的なものを紹介しますので、試しに興味のあるものをやってみて下さい。

(1)フードフォース(http://www.foodforce.konami.jp/about.html>)
 国連の世界食料計画(WFP)が開発した、人道支援が目的のシミュレーションゲームです。内容は、インド洋に浮かぶ仮想の島で多くの難民に食料を供給するゲームです。公開6週間で100万ダウンロードを記録した世界的ヒット作です。Windowsなら日本語版でも遊べます。時間もさほどかからずクリアできるので、初心者におすすめです。(Macの方は、英語版をダウンロードして下さい。(http://www.wfp.org/how-to-help/individuals/food-force) 

(2)Virtual U(http://www.virtual-u.org/downloads/
 こちらもシリアスゲームが注目されるようになったきっかけのゲームで、大学経営を学習するシミュレーションゲームです。プレイヤーは学長になって、限られた予算を使いながら教員を雇ったり、学内の学習環境を整備したりして、他の大学よりも優秀な成果を出すのがゴールです。英語版なのでやや難しいですが、かなり細かい変数が用意されていて、本格的に学習できるゲームです。

(3)America’s Army(http://www.americasarmy.com/
 これもシリアスゲームの有名な作品で、米陸軍が新兵募集のためのマーケティングツールとして開発したゲームです。実際の射撃や作戦行動の訓練過程を精密に再現しており、登場する施設や武器や服装などは実際のもので構成されています。基本は一人称視点で描写されるシューティングゲームですが、現在はオンラインで他のプレイヤーと共同でミッションをこなすモードも作られています。一般で売られているゲームにも引けを取らないできだと評価されています。Windows推奨です。

(4)Stop Disaster!(http://www.stopdisastersgame.org/en/home.html
 これは、津波、山火事、洪水、ハリケーン、地震の五つの災害被害をできるだけ減らすというゲームです。非常にシンプルな作りで、学校や病院など必要な施設を建てつつ、ゲームの最後に必ず襲う災害からその建物を守れればクリアとなっています。難易度も選べるので初心者でも楽しめます。*音量が出るので注意して下さい。

 

シリアスゲームを教育に利用するメリット

 さて、やってみた印象はどうですか?すごい!と思う方もいれば、別にわざわざゲームで教育しなくても教科書で勉強したり、体験学習で事足りるのでは?と思われた方もいると思います。
 では、シリアスゲームをもつメリットは何なのでしょうか?藤本(2007)はそのメリットとして以下の5つを挙げています。

モチベーションの喚起・維持
 これは最も基本的なメリットで、ゲームを利用することで生じる「新奇性」、「インタラクティブ性」などいくつかの要因が働いていると言われています。

全体像の把握や活動プロセスの理解
 ゲームは世界のメカニズムが描写されたり、動的な動きの再現が行われたりするので、全体を俯瞰した形でプレイヤーの意思決定や行動の結果が視覚的に確認できます。ゲームでは現実の時間より何倍も早く時間を進めることもできるので、特に都市開発や経営方法を扱うゲームでは非常に役立ちます。
 上で挙げた大学経営をするゲーム「Virtual U」や、自分で都市開発をするゲーム「シムシティ」、自分で文明を構築していくシミュレーションゲーム「シヴィライゼーション」などが良い例です。

安全な環境での体験学習
 これはシリアスゲームを使うかなり重要なメリットです。ゲーム内の世界は現実に直接影響しないコントロールされた環境なので、直接的な体験学習では行えない体験が可能になります。
 上で挙げたアーミーがこれに当たります。飛行機や車の操縦、手術などの医療活動など、学習内容にリスクが伴うものほど、恩恵は大きくなります。

重要な学習項目を強調した学習体験
 現実世界では関係する変数の数が多すぎたり、構造が複雑になりすぎて何を学習すべきかよくわからなくなってしまうことが多々ありますが、ゲームでは特に学習させたいポイントだけ強調し、残りの部分は単純化させることができます。

行為・失敗を通した学習
 これはゲームを通した学習で特に強調されるメリットです。ゲームというのは、何かを「プレイ」することになるので、必然的に行為を通した学習(Learning by Doing)と相性が良くなります。さらに、ゲームではコンティニューが可能なので、何度失敗しても大丈夫だというメリットがあります。
 失敗を通した学習の価値はロジャー・シャンクなどをはじめ、多くの学習理論研究者達が認めており、試行錯誤の中で失敗しつつフライトや手術の技能、経営方法や国の政策などを学べるシリアスゲームは、ロジャー・シャンクの言う「失敗を通した学習」に最適だと言えます。(これは従来の教育とは大きく異なるポイントだと思います)

 これ以外にも、シリアスゲームはとても多くの学習テクニックと相性が良く、プレンスキー(2009)は「練習とフィードバック」「ゴール志向型学習」「探索学習、ガイド付き探索学習」「課題に基づいた学習」「質問先導型学習」「状況的学習」「ロールプレイ」「コーチング」「構成主義的学習」「(多感的な)加速学習」「学習オブジェクトの選択」「インテリジェントチューター」などの学習上のメリットを挙げています。


シリアスゲームの導入は徐々に現実的に

(1)コンテンツの充実
 シリアスゲームに対する注目は2000年以降世界的に高まり、アメリカをはじめヨーロッパでも様々なセッションが開かれ、多くの研究グループが形成されています。また、世界中で多くのシリアスゲームが開発され、多様な場面で利用できるコンテンツも揃ってきています。(詳しくは参考文献の「デジタルゲーム学習」をご覧下さい。企業向けのものだけでも40以上のシリアスゲームがあります。)

(2)デジタルネイティブの登場
 同時に、教育の対象である子どもたちもいわゆるデジタルネイティブの世代になり、「単線処理→並行処理」「従来のスピード→トゥイッチスピード」「順序に沿った思考→ランダムアクセス」「テキスト先行→グラフィック先行」「スタンドアローン→ネットワーク」「受動的→能動的」「ワーク→プレイ」「我慢→報酬」というように、従来とは異なる認知スタイルに変化していることがプレンスキー(2009)によって指摘されています。彼は、デジタルネイティブの世代はシリアスゲームによる学習と相性が良いとも主張しています。

(3)ゲーム環境の発達・整備
 一方、テクノロジーの発達・導入も進んでいます。例えば近年では、インターネットの成長により、大規模多人数参加型オンラインゲーム(Massively Multiplayer Online game、通称”MMO”)も可能になり、複数のプレイヤーと一緒にシリアスゲームをプレイし、プレイヤー同士で協調学習を行ったり、学び合うことも可能になっています。
 さらに、日本の学校ではICT導入が進み、シリアスゲームに必要な環境も着々と揃っています。近年騒がれている電子教科書もそうですが、日本に限って言えば、シリアスゲームを用いるのに十分な環境が整備されつつあります。


 近代の学校教育では、教科書を読み、先生の話しを聞き、紙に書くというのが主流でした。それが最近の学校教育では、話しを聞くだけでなく、視聴覚教材によってより豊かにイメージを膨らませたり、グループで協調学習をして生徒達が自分たちで能動的に考え合うという新しい活動がプラスされるようになりました。
 そして今、環境・生徒の認知的スタイル・シリアスゲーム研究の蓄積によって、「実際に学んだことを試してみる」という新しい活動がプラスできるようになりました。 
 この先、「シリアスゲーム」というキーワードが学びの世界で重要なインパクトを与えることは間違いなさそうです。

歴史教育での説明スタイル -日米間の違い

参考文献:渡辺雅子(2003)歴史教育における説明スタイルと能力評価 : 日米小学校の授業比較

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世界史の教育実習生がした咄嗟に出した質問「なんで?」

 先日、世界史の授業見学でお世話になっている高校に行った時のことです。 その日は、大学3年生の教育実習生が授業をするとのことだったので、 実習生の世界史の授業見学をさせてもらっていました。大ベテランの先生は型が決まっているので勉強になる一方、 実習生は色んなことを試行錯誤しているので、 普段は観察できない授業方法が生徒にどう受けるのかが見れてとても楽しかったです。

その中で最も面白かったのが、質問の仕方。 「ラテンアメリカの独立に影響を与えた国はどこだったと思う?」と質問をしたら、 生徒は「アメリカ!」とあまりにも簡単に答えられたので、 とっさに「なんで?」と質問を加えたんです。 そうしたら生徒は「え?なんでって…」と困った表情をして思考が一時停止。 でもしばらく考えた後に、ちゃんと答えを導いてしました。

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日米の歴史教育における説明スタイルの違い

 この現象、非常に面白くて、そもそも日本の歴史教育の説明スタイルはWhyがやや少ないんですね。 この点について、渡辺(2003)が面白い研究をしています。
彼女は、
・日本とアメリカの歴史教科書の説明スタイル
・日本とアメリカの教師の1授業中の説明スタイル
の2つを対象に、5W1Hがどの割合で使われているのかを分析・比較しています。

その結果、上位3つとその割合を示すと以下になります。
・教科書(日本)    1位:What(55.3%) 2位:How(31.6%) 3位:Why(10.5%)
・教科書(米)     1位:What(41.6%) 2位:Why(23.3%) 3位:How(21.1%)
・歴史教師の質問(日本)1位:What(39.7%) 2位:How(26.3%) 3位:Why(8.5%)
・歴史教師の質問(米) 1位:What(49.1%) 2位:Why(16.8%) 3位:How(12.7%)

まあWhatが両者1位は当然として、次に多いのが 日本はHow(どんな?)、アメリカがWhy(なぜ?)っていうのが非常に面白いですね。 

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なぜ、日米でこんな差が生まれるのか? 

 彼女の分析によると、 日本の歴史教育にHowが多い理由として、 学習指導要領で「関心・意欲・態度」が重視された結果、 歴史に共感する能力に重きをおく歴史があったからだとしています。
逆にアメリカの歴史教育にWhyが多い理由として2つ挙げています。 1つはベンジャミン・ブルームの分類の影響。 ブルームによると、習得すべき能力の順序として、 「知識」→「理解」→「応用」→「分析」→「統合」→「評価」となっています。 つまり、理解するだけでなく分析能力をつけるためにWhyが多くなったのだとしています。 もう1つは、クリティカルシンキングの影響です。 アメリカでは1960年代後半からクリティカルシンキングの動きが 発達していき、その影響で歴史教育にもWhyが多くなったのだとしています。

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HowとWhy、どっちが良いのか?

 ここからは歴史の授業を見学してきた僕の主観になるのですが、 歴史の授業でWhy型の質問をすると、高校生でも最初はかなり戸惑います。 これは上の実習生だけでなくベテランの場合もそうです。 というのも、WhatやHow(どんな状態だったか?など)は、 基本的には教科書や授業で習った内容をそのままリピートすれば良いのですが、 Why(なんで?)は習った内容を「つなげる」必要があるからです。 これはブルームの分類にもあるように、 知識を得て理解するよりもずっと高度な作業なので、 高校生には答えられない場合も多いです。 ただ、別の高校ですが、 日常的に「こうなったのはなんででしょう?」を テーマにした歴史授業を受けている生徒は、 とても頭を使い、非常に楽しそうに友達と議論を交わしていました。 彼らには暗記一辺倒の歴史授業では身につけられない、 分析能力のようなものが育っているんじゃないだろうかとも思えます。

 もちろん歴史教育において、 HowとWhyのどちらが多い方が良いのかは一概には言えないと思います。 生徒のレベルに合わせてHowが良い時もあれば、Whyの方が良い時もあります。 Whyの答えには主観が入りやすいので、正しい解釈かどうかわからないという問題点もあります。 ただ、歴史の授業でWhyの質問をされると、 頭が熱くなるのも確かです。 「歴史の授業(もしくは学習プロジェクト)やっているけど、 なーんかいまいち盛り上がらないんだよな〜」と悩んでいる日本人のそこのあなた! 知らず知らずHowの質問ばかりしていませんか? 学生はHowの質問に飽きていませんか? そんな時は、Whyを使ってみてはどうでしょう?