2014年にやった4つの研究

(1)博士論文「歴史の応用を学習する方法の開発 −歴史的類推を現代の問題解決へ−」の完成
 今年一番大変だったことが、博士論文でした。学際情報学という、学問と学問の際を研究する大学院ということもあり、色々なご指摘をいただきながら自分なりに考え、ようやく1本の論文にまとめることができました。非常にハードな知的訓練でしたが、おかげさまでようやく自分が大学院でやってきたことを言語化できました。これと関連して、UTalkでゲストスピーチをしたり、d-labミッドタウンで講演をさせていただいたりと、社会への還元もさせていただきました。今後も研究普及に向けて頑張りますが(歴史学の本の共同執筆も進んでいます)、一つの区切りとして皆様にお礼申し上げます。

(2)自分の科研「歴史を現代社会の問題解決方略に転移させる学習メディアの開発と評価」
 博論が終わると同時に、次の研究に向けて科研費もいただきました。博論の次の研究は博士課程の頃から温めていた案なのでとても嬉しく、何だかようやく研究者になったんだなと実感しました。ニュースを通して歴史を学び、それを未来に活かしていく。そんな世界を目指して初めた研究ですが、歴史から因果関係を500個以上抽出したり、分類したり、プログラムを考えたりうちに難問がたくさん見つかり、苦しくも楽しく研究を進めております。2015年度の完成に向け、三元日も研究したいと思います(笑)

(3)JMOOC「日本中世の自由と平等」の反転授業の開発と評価
 4月開講された、日本発のMOOCの初めの講座「日本中世の自由と平等」の評価デザインと反転授業の開発も携わらせていただきました。2万人を超える受講生が何を学んでいるのかを歴史学習の研究の観点から評価できるように質問紙を作ったり、反転授業のデザインをしたりと、こちらもなかなかプレッシャーのかかる大仕事だったのですが、自分の専門性を活かせたプロジェクトに参加させていただき、とても良い経験をさせていただきました。2015年は論文化に向けて頑張りたいと思います。

(4)防災アプリ『首都直下地震72時間』の開発
 特任助教として雇っていただいている科研「学習者の状況および知識構造に対応したシナリオ型防災教育教材の開発」で、様々な学習者の状況に対応した防災シナリオ教材、『首都直下地震72時間』を開発・リリースしたことも今年の大きな思い出です。状況に対応する教材というコンセプトは僕自身の関心事でもあったので、最初は楽しく構成を考えていたのですが、いざ動かしてみると難しい問題が多々発生し、これまたなかなか苦楽しい経験でした。関東圏にお住まいの方はぜひ一度使ってみて下さいませ。


振り返ってみると、今年は色々開発したり、研究プロジェクトを走らせていた1年でした。2015年はこれらの研究をきちんと論文化・書籍化し、社会に還元していきたいと思います!

皆様、今年もありがとうございました!良いお年を!

3Dプリンタが歴史学習に与えるインパクト

最近、3Dプリンタが色々な領域でインパクトを与えています。3Dプリンタとは、3次元データを専用の印刷機に送って「物体」をプリントすることができるもので、医療、自動車、建設などの幅広い領域での応用が考えられています。個人的にはグーテンベルクの活版印刷術に匹敵する技術革新だと思っているのですが、他の領域と同様に歴史学習にもインパクトを与えると踏んでいます。

特に、地理情報が結びついている歴史的事象の理解と、歴史的文化財の形状観察による気付きの2つには効果的だと考えられます。例えば、民族の大移動や都市の発生、戦争時の侵攻ルートなどは地形という3次元情報と強く関係しています。従来の資料集では平面的なルートを示すのにとどまっていましたが、3Dプリンタを使うことでなぜここに都市が出来たのか、なぜここから侵攻したのかという分析や発見を促すことができるかもしれません。また、建築物や装飾品といった歴史的文化財の観察も歴史をより実感するために必要な学習フェーズです。これらも従来の資料集では2次元のカラー写真に限られていましたが、3Dプリンタを使えば実際に触ったり色々な角度から眺められるので、文化財の形状から気付きを促すことができるかもしれません。

これに加え、3Dプリンタの注目すべき点はその普及可能性にあります。現在3Dプリンタの値段は約4万5千円と手が届く範囲になってきており、学校への導入は夢物語ではありません*1。さらに、歴史に関する3次元データも全くない状況ではなく、例えば、ハーバード大学ではメソポタミア時代の考古学的価値を持つ彫刻を3Dプリンタで印刷できる取り組みを行っています*2。また、3Dプリンタ向けのデータではありませんが、Google Cultural Instituteではフランスの歴史上の建築物や都市図を3Dモデルでデジタル化している取り組みも行われています*3

(画像はGoogle Cultural Instituteが作成した1691年のモン・サン=ミシェル修道院の3Dモデル*3

将来的に歴史に関する3次元データが増えて3Dプリンタが社会的に広がれば、歴史の資料集は飛び出す絵本のようになるかもしれませんし、各学校に1台3Dプリンタがあれば、先生が歴史の授業で簡単に模型図を生徒に見せられる時代が来るかもしれません。もし当時の建物の中や備品まで3Dプリンタで印刷できたら、歴史の授業は毎回タイムスリップしているみたいになるんでしょうね。5年後くらいに、そんな研究もできたらいいなと思います。

参考URL
*1 約4万5000円でゲットできる安価な3Dプリンター「Robo3D」:GIGAZINE
*2 Harvard’s 3D-Printing Archaeologists Fix Ancient Artifacts:Wired
*3 立体地図を通して見るフランス:Google Cultural Institute

歴史と現在を融合させるフォトアートとその教育利用の可能性

最近Webを見ていて “The Ghosts of World War Ⅱ” という面白いアート作品を見つけました。これは、現在の写真上に第二次世界大戦時の写真を融合させる手法を取ったロシアの写真家 Sergey Larenkov 氏の作品で、非常に印象的なものになっています。

(全作品はhttp://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/the-ghosts-of-world-war-iisを参照下さい)

歴史と現在を融合させた研究としては、中杉・山内(2002)の「ウェアラブルコンピュータを用いた歴史学習支援システムの開発」があります。これは、特殊なコンピュータを使って、現在の東大の安田講堂に東大紛争時代の映像を重ね合わせるというシステムで、現在と歴史を重ね合わせることによって得られる強い心理的経験を買可能にしています。また、学習効果としては①探索学習の喚起②現在と過去をつなぐ視点の獲得の2つが挙げられています。

映像と画像という違いはあるものの、 “The Ghosts of World War Ⅱ” の作品も類似した学習効果を与えられるかもしれません。例えば下の写真を見せることで、「戦車ってこんなサイズなんだー」と歴史をリアルに感じるかもしれませんし、上の写真を見せることで「何でこんなに階段がボロボロなんだろう?」と探索学習の入り口を提供するかもしれません。また、第二次世界大戦のような大規模なテーマでなくても、昔の茶の間の写真を今の家のリビングの写真に合わせて生徒に見せることで、普段の食卓や服装の違いをリアルに感じさせることもできると思います。

Sergey Larenkov 氏はPhotoshopを使って今と昔の写真を融合させていますが、この手法は比較的教育現場でも導入が可能な手法だと思います。デジタルが苦手な人でも、透明なフィルムに歴史の写真を印刷して現在の写真を重ね合わせることでも代替できると思います。また、歴史の写真は国立国会図書館をはじめ、デジタル・アーカイブ化が進んでいるのでWeb上での入手も比較的簡単になってきています。歴史の授業を行う人は、一度試してみてはどうでしょうか?

 

参考文献・URL
・The Ghosts of World War Ⅱ
http://www.mymodernmet.com/profiles/blogs/the-ghosts-of-world-war-iis
・中杉啓秋, 山内祐平(2002)ウェアラブルコンピュータを用いた歴史学習支援システ
ムの開発. 日本教育工学雑誌 26, 167-172.
http://ci.nii.ac.jp/naid/80015835744 

Facebookを使った歴史授業の可能性

アムステルダムの4e Gymnasiumが、Facebookのタイムラインを利用した世界史の授業を始めたのですが、実際に見てみてとてもクオリティが高いことに驚きました。あまりに感動したので自分のブログでも情報を集約しておきました。

まずは以下の動画で簡単に紹介しているのでご覧下さい。

(出典:http://www.youtube.com/watch?v=WLqGbdqmO6A

4e Gymnasiumの実践では現在4テーマが公開されているのですが、どれも非常に美しく眺めているだけでも十分に楽しいです。

・マゼランの航海(http://www.facebook.com/MagellansVoyage
・ 20世紀の発明史(http://www.facebook.com/20thCenturyInventions
・ 1950年以降のファッション史(http://www.facebook.com/Fashion1950Now
・ソビエト連邦の衰退(現在リンク切れ)

それぞれ年代のタイムラインに沿って関連動画や画像などをどんどん貼ることができるので、テーマ史を中心に生徒達に歴史をまとめさせる授業にも使えますし、コメント欄では生徒が質問もできるのでインタラクティブな授業も可能です。

似た取り組みは、今まで色んな研究者がHPやブログを中心に作ってきていましたが、僕の知る限りここまでインターフェースが美しく使いやすいものはなかったように思います。特にFacebookの場合は、リンク先を貼るだけで画像が出て来たり、写真のアップロードが簡単だったり、投稿に対する反応があった時に知らせてくれる機能があるので、学校現場での導入がよりスムーズに行えそうな印象を持ちました。

このようにみんなで歴史を再構築していく場合、生徒が参加しやすいかどうかは非常に重要なので、今後コンテンツが増えていけば一気に歴史の授業が変わる可能性があるように感じました。今後の展開に注目したいと思います。

参考URL:http://mashable.com/2012/09/17/facebook-timeline-history-lesson/

Social Education Lab 第2回(地理ver)開催報告

Social Education Lab 第2回(地理ver)開催報告

地理、歴史、公民など社会科に興味のある人達が集まり、お互いの知識をシェアする研究会、Social Education labの第2回は「地理」をテーマに実施しました!今回は地理の教師である上野貴子先生をゲストにお招きし、地理教育の知識を(1)地理科目における電子黒板の利用と問題解決型授業を行うための取り組み、(2)日本の地理教育の動向、(3)海外の地理教育の動向の順番でシェアしていきました。

(1) 地理科目における電子黒板の利用と問題解決型授業を行うための取り組み(上野貴子先生)

上野先生の授業形態と興味をもたせる工夫
 上野先生はこれまで中高で50分の講義形式の授業を行ってきており、必ず「なぜ、〜なのだろうか?」という疑問を投げかけ、生徒の意見を聞き出す時間を入れてきました。ところが 同じ授業方法を行っても 、10年程前と比べて最近は生徒からの自主的な質問がなかなか出てこなくなっており、うまく誘導したり興味付けることに力を入れるようになりました。

電子黒板を使った地理の授業
 そこで、上野先生が5年前に目をつけたのが電子黒板でした。 電子黒板とは、パソコンの画面上に表示しているものをホワイトボードなどに表示して描いた内容をデータに変換して保存できるもので、情報量の多い授業展開が可能になります。パソコン上で板書のようにカラフルな線を引くことも可能なので、地図帳と板書を組み合わせたようなリッチな授業ができます。(実際に研究会で上野先生に使っているところを見せてもらったのですが、想像以上に自由度が高い上に、視線がきれいに誘導されて驚きました!)

電子黒板とノートテイキング
 ところが電子黒板を使ううち、生徒によってノートテイキングの時間差が大きすぎることに気付きました。従来の黒板だと左半分・右半分と順番に書いていくので、ノートテイキングにタイムラグがあっても写すことは可能です。ところが、電子黒板の場合は教師が板書に費やす時間が少なく、画面もポンポンと進んでいってしまうため、ノートテイキングが追いつかない生徒が出て来るという問題が生じました。
そこで、画面を切り替えるのではなく、スライドを縦につなげていって、最初に上半分の画面を映しだし、スクロールをして徐々に下を映し出す方式にして、板書に近い形にするという工夫を取りました。その後、試行錯誤を重ねた結果、従来の黒板を半分使い、もう半分の部分に電子黒板を置くという併用型の授業形態に落ち着きました。

ノートテイキングとテストの関係性
 次に、上野先生自身が行われた興味深いを調査を紹介してもらいました。上野先生は電子黒板を使った地理の授業におけるノートテイキングがテストの成績にどう影響しているかを調べるため、中学2年生のノートを集め、以下の4つに分類しました。

①大変良い・・・ 板書した内容+口頭説明 +自分なりのノート作り
②良い・・・板書した内容+口頭説明
③普通・・・板書した内容
④悪い・・・板書した内容が書き取れていない

そのノート別に期末試験の点数を分析したところ、とても面白いことがわかりました。最初は「大変良い」ノートを取っている生徒が一番成績が良いと思っていたそうなのですが、実際の成績の伸び自体は「普通」「良い」とそこまで変わっていなかったのです(これに対して上野先生は、ノート作りに必死で教師の話を聞いていない可能性があると指摘していました)。一方、「悪い」ノートを取っている生徒は、「普通」「良い」「大変良い」のノートを取っている生徒に比べて極端に成績が悪いことがわかりました。また、板書せずに口頭で説明した内容をテストに出すと、正答率が低いこともわかりました。

生徒主体の問題解決型授業を行うために
 ここで上野先生は「今までの授業形態では、生徒の学ぶ力を育てるには限界があるのでは?どんな授業だと地理教育本来の目的を実現し、生徒の学ぶ力を育てられるか?」と思い、生徒主体の問題解決型授業を行うことを目指しました。
ところが、現在のカリキュラムでは時間的に問題解決型の授業を取り入れるのは厳しいという問題があります。そこで、目をつけたのが「反転授業」です。反転授業とは、説明型の講義をオンライン教材化して宿題にし、従来宿題であった応用課題を教室で対話的に学ぶ授業のことを指します。上野先生はこの方法を使い、電子黒板を使いつつ音声と板書を時系列で記録した地理授業の映像を生徒にあらかじめ見せることで問題解決型の授業時間を確保し、問題解決型の授業を実施するという方法を取っており、より良い実施方法に向けて試行錯誤中とのことでした。(下の画像は実際の映像です)

 

(2)日本の地理教育の動向(逸見峻介)

注目されているキーワード
 逸見さんからは日本の学会における地理教育の動向を紹介してもらいました。逸見さんによると最近注目されているキーワードは、以下の4つだそうです。

①動態的地誌
動態的地誌とは、地域の特色を形成している中心的な要素に絞って内容構成を図る地誌学習です。ドイツの範例学習やイギリスのサンプルスタディが主な例です。網羅主義になりやすい静態的地誌と異なり、関係性の深いテーマを中心に構成されるため、社会問題などがテーマになりやすく、公民などとの連携色が強くなるのが特徴です。

②観光
2つ目は「観光」です。日本は観光立国ということもあり、日本地理教育学会でも発表テーマとしてよく取り上げられています。具体的には、図上旅行学習、観光ホスピタリティ、世界遺産、クールジャパン、食文化などを扱う授業がこれに当てはまります。

③ESD(Education for Sustainable Development:持続発展教育)
3つ目は「ESD」です。近年の環境問題とも連動し、持続可能な社会を実現するためのテーマ設定を行い、地理と連動させた学習を行わせる形です。具体的には、社会参画(ゴミマップ)、生態系調査、環境問題、エネルギー問題、GISを使ったヒートアイランド観測などを扱う授業がこれに当てはまります。

④防災
4つ目は防災です。これは特に3.11以降によく取り上げられるようになり、2012年の日本社会科教育学会のテーマにもなっています。その中でも、自助や公助に加えて近隣で互いに助け合う「共助」も注目されているようです。また、防災だけでなく、災害時に生じる被害を最小化するための取り組みとして「減災」にも注目が集まっているそうです。具体的には、エネルギー問題、ハザードマップ、図上防災訓練、阪神淡路大震災を扱う授業がこれに当てはまります。

授業実践例(新小岩小学校の取り組み)
 続いて逸見さんから、小学震災をテーマにした町づくりを授業実践を紹介してもらいました。この授業では、1学期には「自分たちにとっての震災」というテーマで、3.11時の体験を振り返り、首都直下型地震を想定した家の中の危険チェックを考えて見取り図などを作成します。2学期では「地域の防災チェック」というテーマで、新小岩の延焼シミュレーションを行ったり、消化器が置かれている場所や消防車の通路などを調べる地域の防災チェックを行い、最終的には町長や消防なども参加する防災対策発表会で発表を行い、町会長から感謝状をもらうに至ったそうです。この授業を通して、生徒達は家の中から地域まで徐々に防災意識を広げつつ、色々な課題を知ることができるようになったそうです。

 

(3) 海外の地理教育の動向(池尻良平)

海外の地理教育の2つの動向
 最後に池尻さんからは海外の地理教育の2つの動向を紹介してもらいました。1つは、フィールドベース型の問題解決学習です。これは、生徒の環境的なアイデンティティを育みつつ、認知的な学習効果も期待できるもので、イギリスやニュージーランド、シンガポールで活発に行われています。実践方法としては、1 準備(レベル設定、資料整理など)、2 シナリオデザイン(リアルさ、自主性、多次元の問題、解決可能性を重視)、3 実践(役割分担をさせ、質問を投げ、明確な制作物を課す)、4 評価(学習プロセスと制作物を、教師と生徒同士で評価)の流れが一般的です。
もう1つは、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)です。これは地理上の多様なデータを重ねられるシステムで、例えば通常の地図の上に気候や人口分布、下水道の位置などを重ねることができ、空間的な理由付けに効果があると考えられています。

地理教育における問題解決+GISの効果実験
 もう一つ実証的な実験としてYan, Elisabeth, Chang, Hans(2010)の”PBL-GIS in Secondary Geography Education: Does It Result in Higher-Order Learning Outcomes?” を紹介しました。これはシンガポールの中学校で行われた実験で、シンガポールが抱えている問題の一つである「人口のダイナミズムと移民」をテーマにした問題解決型学習をベースにしたものです。ここでGISの効果を見るため生徒を以下に分けました。

●実験群:問題解決型学習のプログラム + GISシステム
●統制群:問題解決型学習のプログラム + コピー資料やJPG画像

この状態で授業を行い、ブルームの分類をもとに①記憶再生、②理解、③応用、④分析、⑤評価、⑥創造の6つの観点で評価を行いました。その結果、①記憶再生は統制群の方が高かったのですが、他の5つに関しては全てGISを使う実験群の方が高かったのです。
上野先生や逸見さんのプレゼンでも問題解決型の授業について触れられていましたが、今後、学習効果の観点から見てもGISと組み合わせることが重要といえそうです。

地理の教育方法について
 今回の研究会は、参加者の半分が教員ということで地理の具体的な教育方法についてのシェアが活発に行われました。例えば、鈴木先生からは必ず真ん中に世界地図を置いて、場所が見えるようにして授業しているという話をしてもらったり、松本先生からは関ヶ原の合戦のテレビとかはわかりやすいので教育でも取り入れられそうという話が出ました。逸見さんが動態的地誌について紹介したことに対しては、上野先生からは「動態的地誌は促成栽培の比較とかが行われることが考えられているが、順番で教えている場合、奈良県を教えていない場合はできないという問題がある」というカリキュラム構成の課題についても触れてもらい、地理教育についてのディスカッションにも熱が入りました。さらに、地理教育に使えるシステムについての話にもなり、デジタル地図帳やGoogleアース、GISなどについての知識も共有しました。

地理とは何か、他の教科とはどう連動できるか
 上野先生は「地理は自然と人間の生活をつなぐもの」と考えており、「ただ、人間の生活は歴史や公民がないとわからないので、決められた時間内でどう連携するかが大事」と話してもらいました。同時に、電子黒板を使えば5時間かかった授業が3時間で済むことから、残りの2時間をどう使うかが鍵になりそうです。

まとめ
 研究会後、先生サイドとして、鈴木先生は「純粋にやってみたいことが一杯あった。2学期にやってみてそのフィードバックをこの研究会でしたい」という感想を、松本先生は「実りが多かった。現場の地理の先生の知らないことが一杯あるので、みんなに話したい」という感想を、上野先生からは「色んな人と会って話をすることの大事さを感じた」という感想を話してもらいました。
一方、学生サイドとしては、藤谷さんからは「大学の教育方法の授業は今までやってきたことがベースになっているので、こういう研究会のように新しいものには触れられておらず、教師教育が遅れているように感じた。アナログ人間だけど現場に行くまでに身につけたいと思った」という感想を、 逸見さんからは「教科教育はICTとかGISなどについては遅れている。デジタルが後々当たり前になった時の、具体的なことが話せて良かった」という感想を、池尻さんからは「地理教育は全然わからなかったけど、具体的なイメージが湧いてとても刺激的だった」という感想が出ました。今回の研究会もとても刺激的な会でした!皆さんありがとうございました!

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シリアスゲームの教育的特徴

参考文献:藤本徹(2007)シリアスゲーム. 東京電機大学出版会.
     マーク・プレンスキー(2009)デジタルゲーム学習. 東京電機大学出版会.
     山内祐平(2010)デジタル教材の教育学. 東京大学出版会.

シリアスゲームとは?

 藤本(2007)ではシリアスゲームをこう定義しています。

 「教育をはじめとする社会の諸領域の問題解決のために利用されるデジタルゲーム」

 ポイントは、通常のゲームと違い教育の意図があることと、学校教育、企業内研修、公共政策、軍事、政治、医療・福祉など諸領域の「問題解決」がゲームのベースになっているという点です。
 あれこれと説明する前に、「百聞は一見に如かず」ということでまずは実際にシリアスゲームをやってみましょう。以下に無料で体験できるシリアスゲームの代表的なものを紹介しますので、試しに興味のあるものをやってみて下さい。

(1)フードフォース(http://www.foodforce.konami.jp/about.html>)
 国連の世界食料計画(WFP)が開発した、人道支援が目的のシミュレーションゲームです。内容は、インド洋に浮かぶ仮想の島で多くの難民に食料を供給するゲームです。公開6週間で100万ダウンロードを記録した世界的ヒット作です。Windowsなら日本語版でも遊べます。時間もさほどかからずクリアできるので、初心者におすすめです。(Macの方は、英語版をダウンロードして下さい。(http://www.wfp.org/how-to-help/individuals/food-force) 

(2)Virtual U(http://www.virtual-u.org/downloads/
 こちらもシリアスゲームが注目されるようになったきっかけのゲームで、大学経営を学習するシミュレーションゲームです。プレイヤーは学長になって、限られた予算を使いながら教員を雇ったり、学内の学習環境を整備したりして、他の大学よりも優秀な成果を出すのがゴールです。英語版なのでやや難しいですが、かなり細かい変数が用意されていて、本格的に学習できるゲームです。

(3)America’s Army(http://www.americasarmy.com/
 これもシリアスゲームの有名な作品で、米陸軍が新兵募集のためのマーケティングツールとして開発したゲームです。実際の射撃や作戦行動の訓練過程を精密に再現しており、登場する施設や武器や服装などは実際のもので構成されています。基本は一人称視点で描写されるシューティングゲームですが、現在はオンラインで他のプレイヤーと共同でミッションをこなすモードも作られています。一般で売られているゲームにも引けを取らないできだと評価されています。Windows推奨です。

(4)Stop Disaster!(http://www.stopdisastersgame.org/en/home.html
 これは、津波、山火事、洪水、ハリケーン、地震の五つの災害被害をできるだけ減らすというゲームです。非常にシンプルな作りで、学校や病院など必要な施設を建てつつ、ゲームの最後に必ず襲う災害からその建物を守れればクリアとなっています。難易度も選べるので初心者でも楽しめます。*音量が出るので注意して下さい。

 

シリアスゲームを教育に利用するメリット

 さて、やってみた印象はどうですか?すごい!と思う方もいれば、別にわざわざゲームで教育しなくても教科書で勉強したり、体験学習で事足りるのでは?と思われた方もいると思います。
 では、シリアスゲームをもつメリットは何なのでしょうか?藤本(2007)はそのメリットとして以下の5つを挙げています。

モチベーションの喚起・維持
 これは最も基本的なメリットで、ゲームを利用することで生じる「新奇性」、「インタラクティブ性」などいくつかの要因が働いていると言われています。

全体像の把握や活動プロセスの理解
 ゲームは世界のメカニズムが描写されたり、動的な動きの再現が行われたりするので、全体を俯瞰した形でプレイヤーの意思決定や行動の結果が視覚的に確認できます。ゲームでは現実の時間より何倍も早く時間を進めることもできるので、特に都市開発や経営方法を扱うゲームでは非常に役立ちます。
 上で挙げた大学経営をするゲーム「Virtual U」や、自分で都市開発をするゲーム「シムシティ」、自分で文明を構築していくシミュレーションゲーム「シヴィライゼーション」などが良い例です。

安全な環境での体験学習
 これはシリアスゲームを使うかなり重要なメリットです。ゲーム内の世界は現実に直接影響しないコントロールされた環境なので、直接的な体験学習では行えない体験が可能になります。
 上で挙げたアーミーがこれに当たります。飛行機や車の操縦、手術などの医療活動など、学習内容にリスクが伴うものほど、恩恵は大きくなります。

重要な学習項目を強調した学習体験
 現実世界では関係する変数の数が多すぎたり、構造が複雑になりすぎて何を学習すべきかよくわからなくなってしまうことが多々ありますが、ゲームでは特に学習させたいポイントだけ強調し、残りの部分は単純化させることができます。

行為・失敗を通した学習
 これはゲームを通した学習で特に強調されるメリットです。ゲームというのは、何かを「プレイ」することになるので、必然的に行為を通した学習(Learning by Doing)と相性が良くなります。さらに、ゲームではコンティニューが可能なので、何度失敗しても大丈夫だというメリットがあります。
 失敗を通した学習の価値はロジャー・シャンクなどをはじめ、多くの学習理論研究者達が認めており、試行錯誤の中で失敗しつつフライトや手術の技能、経営方法や国の政策などを学べるシリアスゲームは、ロジャー・シャンクの言う「失敗を通した学習」に最適だと言えます。(これは従来の教育とは大きく異なるポイントだと思います)

 これ以外にも、シリアスゲームはとても多くの学習テクニックと相性が良く、プレンスキー(2009)は「練習とフィードバック」「ゴール志向型学習」「探索学習、ガイド付き探索学習」「課題に基づいた学習」「質問先導型学習」「状況的学習」「ロールプレイ」「コーチング」「構成主義的学習」「(多感的な)加速学習」「学習オブジェクトの選択」「インテリジェントチューター」などの学習上のメリットを挙げています。


シリアスゲームの導入は徐々に現実的に

(1)コンテンツの充実
 シリアスゲームに対する注目は2000年以降世界的に高まり、アメリカをはじめヨーロッパでも様々なセッションが開かれ、多くの研究グループが形成されています。また、世界中で多くのシリアスゲームが開発され、多様な場面で利用できるコンテンツも揃ってきています。(詳しくは参考文献の「デジタルゲーム学習」をご覧下さい。企業向けのものだけでも40以上のシリアスゲームがあります。)

(2)デジタルネイティブの登場
 同時に、教育の対象である子どもたちもいわゆるデジタルネイティブの世代になり、「単線処理→並行処理」「従来のスピード→トゥイッチスピード」「順序に沿った思考→ランダムアクセス」「テキスト先行→グラフィック先行」「スタンドアローン→ネットワーク」「受動的→能動的」「ワーク→プレイ」「我慢→報酬」というように、従来とは異なる認知スタイルに変化していることがプレンスキー(2009)によって指摘されています。彼は、デジタルネイティブの世代はシリアスゲームによる学習と相性が良いとも主張しています。

(3)ゲーム環境の発達・整備
 一方、テクノロジーの発達・導入も進んでいます。例えば近年では、インターネットの成長により、大規模多人数参加型オンラインゲーム(Massively Multiplayer Online game、通称”MMO”)も可能になり、複数のプレイヤーと一緒にシリアスゲームをプレイし、プレイヤー同士で協調学習を行ったり、学び合うことも可能になっています。
 さらに、日本の学校ではICT導入が進み、シリアスゲームに必要な環境も着々と揃っています。近年騒がれている電子教科書もそうですが、日本に限って言えば、シリアスゲームを用いるのに十分な環境が整備されつつあります。


 近代の学校教育では、教科書を読み、先生の話しを聞き、紙に書くというのが主流でした。それが最近の学校教育では、話しを聞くだけでなく、視聴覚教材によってより豊かにイメージを膨らませたり、グループで協調学習をして生徒達が自分たちで能動的に考え合うという新しい活動がプラスされるようになりました。
 そして今、環境・生徒の認知的スタイル・シリアスゲーム研究の蓄積によって、「実際に学んだことを試してみる」という新しい活動がプラスできるようになりました。 
 この先、「シリアスゲーム」というキーワードが学びの世界で重要なインパクトを与えることは間違いなさそうです。